Amazon RDS の特徴整理
Amazon RDS は、AWS クラウドでリレーショナルデータベースを簡単にセットアップし、運用し、スケーリングできるフルマネージドサービスです。本記事では、AWS クラウドデータベースの基礎概念から、RDS と Aurora の詳細な比較まで、包括的に解説します。
AWS クラウドデータベースの基礎とAmazon RDSの概要
AWS クラウドにおけるリレーショナルデータベースサービスは、多くの企業にとって不可欠なインフラストラクチャとなっています。このセクションでは、その中心となる Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) の基本概念、その利点、そして基盤となる DB インスタンスの詳細について解説します。
AWS クラウドコンセプトの基本
AWS クラウドは、単なるサーバーの集合体ではありません。それは、リージョンとアベイラビリティーゾーン (AZ) という、物理的に分離されつつも連携するグローバルインフラストラクチャに基づいています。
AWS リージョンとは
各 AWS リージョンは、他のリージョンから完全に分離されるように設計されています。この分離は、最大限の耐障害性と安定性を実現することを目的としています。例えば、東京リージョンとバージニア北部リージョンは完全に独立しており、一方のリージョンで問題が発生しても、もう一方のリージョンには影響が及ばないようになっています。RDS インスタンスを作成または操作する際には、対象のリージョンに合わせたサービスエンドポイントを使用する必要があります。
アベイラビリティーゾーン (AZ) の概念
各リージョン内には、複数 (通常は3つ以上) のアベイラビリティーゾーンが存在します。AZ は、それぞれ独立した電源、ネットワーク、冷却設備を持つ物理的に隔離されたデータセンターの集まりです。これにより、単一の AZ で障害が発生しても、他の AZ で稼働しているシステムには影響を与えない高い可用性を実現します。DB インスタンスを作成する際、ユーザーは AZ を自分で選択することも、Amazon RDS にランダムに選択させることも可能です。
Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) とは
Amazon RDS は、AWS クラウドでリレーショナルデータベースを簡単にセットアップし、運用し、スケーリングできるウェブサービスです。オンプレミス環境や Amazon EC2 上でデータベースを構築・運用する場合と比較して、多くの管理タスクを AWS が自動化することで、運用の手間を大幅に削減します。
RDS の定義とサポートされるデータベースエンジン
RDS は、以下の業界標準のリレーショナルデータベースエンジンをサポートしており、ユーザーは使い慣れたデータベース技術をクラウド上で利用できます。
- IBM Db2
- MariaDB
- Microsoft SQL Server
- MySQL
- Oracle Database
- PostgreSQL
ただし、このガイドでは Amazon Aurora 以外の RDS データベースエンジンに焦点を当てています。Amazon Aurora については、別途専用のユーザーガイドを参照する必要があります。
RDS の主要な利点(マネージドサービスとしての特徴)
RDS が「マネージドサービス」であることの最大の利点は、以下のような面倒な管理タスクを AWS が自動的に処理してくれる点にあります。
- バックアップと復旧: 自動バックアップ機能があり、ユーザーは手動でスナップショットを作成することも可能です。これらのバックアップは、信頼性が高く効率的なデータベースの復元を可能にします。
- ソフトウェアパッチ: データベースエンジンのセキュリティパッチやマイナーバージョンアップグレードが自動的に適用されます。
- 障害検出と復旧の自動化: マルチ AZ デプロイを設定することで、プライマリ DB インスタンスに問題が発生した場合、同期スタンバイレプリカへの自動フェイルオーバーが実行され、高可用性が維持されます。
- 読み取りスケーリング: リードレプリカを作成することで、プライマリ DB インスタンスの負荷を軽減し、読み取りパフォーマンスをスケールアウトできます。
- セキュリティ: Amazon VPC 内のセキュアなネットワークに配置でき、AWS Identity and Access Management (IAM) を使用してデータベースへのアクセスを細かく制御できます。
- モニタリング: Amazon CloudWatch や Performance Insights などのツールを利用して、DB インスタンスのパフォーマンスやヘルス状態を詳細に監視できます。
- 操作の容易性: AWS Management Console、AWS CLI、または Amazon RDS API を通じて、DB インスタンスの作成や変更を簡単に行うことができます。
Amazon EC2 やオンプレミス環境との責任共有モデルの比較
AWS では、サービスによって AWS とユーザーの責任範囲が異なります。RDS は、EC2 やオンプレミス環境に比べて、AWS がより多くの管理責任を負うため、ユーザーはデータベースソフトウェアや基盤となるインフラストラクチャの管理に費やす時間を削減できます。これにより、アプリケーション開発やビジネスロジックに集中することが可能になります。
DB インスタンスの基礎
DB インスタンスは、Amazon RDS における基本的な構成要素であり、AWS クラウド内の独立したデータベース環境を指します。各 DB インスタンスには、ユーザーが作成した1つ以上のデータベースを含めることができます。
DB インスタンスの役割と構成要素
- DB インスタンスは、外部からのアクセスポイントとしてエンドポイント (DNS名) を提供します。アプリケーションはこのエンドポイントを使用して DB インスタンスに接続します。例えば、
db1.abcdefghijkl.us-east-1.rds.amazonaws.com
のような形式のエンドポイントが自動的に割り当てられます。 - DB インスタンスの作成時には、ストレージ、メモリ、データベースエンジンとバージョン、ネットワーク構成、セキュリティ設定、メンテナンス期間などの詳細を指定します。
- DB インスタンスへのネットワークアクセスは、VPC のセキュリティグループを通じて制御されます。
DB インスタンスクラスの選択
DB インスタンスクラスは、DB インスタンスに割り当てられるコンピューティング(CPU)とメモリの容量を決定します。これは、EC2 インスタンスタイプと同様に、DB インスタンスクラスタイプとサイズで構成されます。RDS がサポートする主なインスタンスクラスタイプは以下の通りです。
- 汎用 (db.m*): 幅広いワークロードに対応するバランスの取れた性能を提供します。
- メモリ最適化 (db.r*, db.x*, db.z*): メモリを大量に消費するアプリケーションに最適で、高いメモリ容量を提供します。
- コンピューティング最適化 (db.c*): 計算集約型ワークロードに適しており、高い CPU 性能を提供します。
- バースト可能パフォーマンス (db.t*): ベースライン性能を持ちつつ、必要に応じて CPU をバーストさせることができ、開発/テスト環境や低〜中程度のワークロードに適しています。
ユーザーの要件は時間とともに変化するため、DB インスタンスクラスは後から変更することが可能です。なお、古い世代のインスタンスクラスはサポート終了プロセスが進んでおり、新しい世代へのアップグレードが推奨されています。
DB インスタンスストレージのタイプと特性
Amazon RDS は、データベースとログの保存にAmazon Elastic Block Store (EBS) ボリュームを使用します。ストレージタイプは、パフォーマンス特性とコストに違いがあり、データベースのワークロードに応じて調整できます。
汎用 SSD (gp2, gp3)
- gp3 (推奨): コスト効率が高く、ストレージ容量とは独立して IOPS(1秒あたりの I/O 操作数)とスループットをカスタマイズできる柔軟性を提供します。中規模のワークロードや開発/テスト環境に推奨されます。
- gp2 (旧世代): ストレージ容量に応じて IOPS 性能が決まるタイプで、特定のバースト性能も持ちます。
プロビジョンド IOPS (PIOPS) SSD (io1, io2 Block Express)
- io2 Block Express (推奨) と io1 (旧世代) があり、低レイテンシーで一貫した I/O スループットが必要な I/O 集約型ワークロード、特に本稼働環境のデータベースに最適です。プロビジョニングした IOPS 量に基づいて課金されます。
マグネティック (旧称スタンダード)
下位互換性のためにサポートされていますが、新しいデプロイでは汎用 SSD またはプロビジョンド IOPS SSD の使用が推奨されます。
専用ログボリューム (DLV)
プロビジョンド IOPS ストレージを使用する DB インスタンスで利用でき、トランザクションログをデータベーステーブルとは別のボリュームに移動することで、書き込みパフォーマンスと一貫性を向上させます。DLV は、大きなデータベースや I/O 要件の高い、または遅延に敏感なワークロードに最適です。
Amazon Aurora との関係
Amazon Aurora は、RDS ファミリーの一部として提供されているクラウドネイティブなリレーショナルデータベースサービスです。MySQL および PostgreSQL 互換で、従来の RDS とは異なるアーキテクチャを採用しています。
Aurora の基本的な特徴
- クラウドネイティブ設計: AWS クラウドに最適化されたアーキテクチャ
- 高パフォーマンス: 従来のデータベースエンジンを上回る性能
- サーバーレス オプション: Aurora Serverless による自動スケーリング
- 高可用性: 分散ストレージによる耐障害性
基本的な選択指針
- 従来の RDS: 幅広いデータベースエンジンのサポート、コスト効率
- Aurora: 高性能・高可用性が必要な MySQL/PostgreSQL ワークロード
詳細な比較と選択基準については、Amazon Aurora 概要ガイドを参照してください。
まとめ
Amazon RDS を利用すると、データベース運用の多くを AWS に任せることができ、アプリケーション開発に専念できます。本記事では、AWS クラウドデータベースの基礎概念と Amazon RDS の基本的な機能について解説しました。
RDS の主要なポイント
- マネージドサービス: AWS が管理タスクを自動化
- 幅広いエンジンサポート: 6つの業界標準データベースエンジン
- 柔軟なインスタンス設定: ワークロードに応じたクラスとストレージの選択
- 高可用性: マルチ AZ とリードレプリカによる冗長性
- AWS エコシステム: 他の AWS サービスとの連携
データベース選択の考慮事項
- 使用したいデータベースエンジン: MySQL/PostgreSQL 以外が必要な場合は RDS
- パフォーマンス要件: 標準的な要件であれば RDS で十分
- コスト制約: コスト効率を重視する場合は RDS が適している
- 運用体制: 既存の運用プロセスとの適合性
高性能・高可用性が必要な MySQL/PostgreSQL ワークロードの場合は、Amazon Aurora 概要ガイドで詳細な比較と選択基準を確認してください。
これらの基礎を理解することで、Amazon RDS の多機能性と柔軟性を最大限に活用できるでしょう。
参考リンク
関連記事: Amazon EC2 の基本ガイド