Amazon EC2 移行とベストプラクティス

Amazon EC2への移行は、適切な戦略とツールを選択することで、コスト削減、可用性向上、イノベーション促進を実現できます。AWS公式の移行戦略とベストプラクティスに基づいて、効果的な移行を実現しましょう。

移行戦略の概要

主要な移行戦略

大規模移行における一般的な戦略には、Rehost、Replatform、Relocate、Retireがあります。Refactorは大規模移行には推奨されません。これは、アプリケーションの大幅な変更を伴うためです。

Rehost(リホスト)- Lift and Shift

基本概念 Rehost戦略は「Lift and Shift」とも呼ばれ、アプリケーションに変更を加えることなく、ソース環境からAWS Cloudに移行する手法です。例えば、オンプレミスからAWS Cloudにアプリケーションスタック全体を移行します。

主要メリット

  • 複数のソースプラットフォーム(物理、仮想、他のクラウド)から大量のマシンをAWS Cloudに移行可能
  • 互換性、パフォーマンス中断、長時間のカットオーバーウィンドウ、長距離データレプリケーションを心配する必要がない
  • ワークロード移行中もアプリケーションがユーザーにサービスを継続提供
  • 中断とダウンタイムを最小化(ダウンタイムはカットオーバー戦略に依存)

自動化ツール Rehostingは以下のサービスを使用して自動化できます:

  • AWS Application Migration Service
  • AWS Database Migration Service

Relocate(リロケート)

基本概念 Relocate戦略では、1つ以上のアプリケーションを構成する大量のサーバーを、オンプレミスプラットフォームからクラウド版プラットフォームに一度に転送できます。また、インスタンスやオブジェクトを異なるVPC、AWSリージョン、AWSアカウントに移動する場合にも使用できます。

主要特徴

  • 新しいハードウェアの購入、アプリケーションの書き直し、既存運用の変更が不要
  • 移行中もアプリケーションがユーザーにサービスを継続提供
  • 中断とダウンタイムを最小化
  • アプリケーションの全体的なアーキテクチャに影響を与えないため、最も迅速な移行方法

AWS Application Migration Service

サービス概要

AWS Application Migration Serviceは、アプリケーションの移行とモダナイゼーションのコストを簡素化、迅速化し、削減します。物理サーバー、VMware vSphere、Microsoft Hyper-V、その他のオンプレミスインフラストラクチャで実行されているSAP、Oracle、SQL Serverなどのアプリケーションを移行できます。

対応する移行シナリオ

オンプレミスアプリケーション 物理サーバー、VMware vSphere、Microsoft Hyper-V、その他のオンプレミスインフラストラクチャで実行されているアプリケーションを移行します。

クラウドベースのアプリケーション 他のパブリッククラウドで実行されているアプリケーションをAWSに移行し、コストを削減し、可用性を高め、イノベーションを促進する200を超えるサービスにアクセスできます。

AWSリージョン間移行 ビジネス、回復力、コンプライアンスのニーズを満たすために、AWSリージョン、アベイラビリティゾーン、アカウント全体でAmazon EC2ワークロードをより簡単に移行できます。

アプリケーションのモダナイゼーション カスタムモダナイゼーションアクションを適用するか、クロスリージョンディザスタリカバリ、Windows Serverバージョンアップグレード、Windows MS-SQL BYOLからAWSへのライセンス変換などの組み込みアクションを選択してアプリケーションを最適化できます。

移行プロセス

前提条件

  • Application Migration Serviceをサポートする AWSリージョンでのアクティブなAWSアカウント
  • AWS Direct ConnectまたはVPN、インターネット経由でのソースサーバーとターゲットEC2サーバー間のネットワーク接続

移行手順

  1. AWS Application Migration Serviceの初期化
  2. ステージングエリアサーバー設定とレポート設定(ステージングエリアリソースを含む)
  3. ソースサーバーへのエージェントインストール(継続的なブロックレベルデータレプリケーション:圧縮・暗号化)
  4. オーケストレーションとシステム変換の自動化(カットオーバーウィンドウの短縮)

制限事項

  • 各サポート対象AWSリージョンで同時にアクティブにレプリケートできるサーバーの最大数は20台(60台まで増加可能)
  • 単一ジョブで使用できるソースサーバーの最大数は200台

AWS Database Migration Service(DMS)

サービス概要

AWS Database Migration Service(AWS DMS)は、リレーショナルデータベース、データウェアハウス、NoSQLデータベース、その他のタイプのデータストアの移行を可能にするクラウドサービスです。AWS Cloudへのデータ移行や、クラウドとオンプレミスのセットアップの組み合わせ間での移行が可能です。

主要機能

データストアの検出 DMS Fleet Advisorを利用して、オンプレミスのデータベースと分析サーバーからデータを収集し、AWS Cloudに移行できるサーバー、データベース、スキーマのインベントリを構築できます。

スキーマ変換 異なるデータベースエンジンに移行する場合、DMS Schema Conversionを使用してソーススキーマを自動的に評価し、新しいターゲットエンジンに変換できます。

継続的レプリケーション 移行に加えて、AWS DMSは地理的データベース分散や開発・テスト環境同期など、多くのユースケースで継続的レプリケーションをサポートします。

移行オプション

同種データベース移行 同種移行では、ソースとターゲットデータベース間でスキーマ構造、データタイプ、データベースコードが既に互換性があります。例:OracleからAmazon RDS for Oracle、MySQLからAmazon Aurora MySQL。

異種データベース移行 異なるデータベース間での移行により、モダナイゼーションを実現できます。AWS DMSは20以上のデータベースとデータウェアハウスをソースおよびターゲットエンドポイントとしてサポートします。

料金体系

AWS DMSでは、オンデマンドインスタンスまたはサーバーレスを選択できます:

オンデマンドインスタンス

  • レプリケーションインスタンスと追加のログストレージの料金のみを使用した時間単位で支払い
  • 各データベース移行インスタンスには、ほとんどのレプリケーションのためのスワップ領域、レプリケーションログ、データキャッシュに十分なストレージが含まれる

サーバーレス

  • レプリケーションインスタンスのプロビジョニング不要
  • 使用したキャパシティに対してのみ支払い

移行のベストプラクティス

Application Migration Service使用時のベストプラクティス

事前準備

  • カットオーバーが完了するまで、ソースサーバーをオフラインにしたり再起動を実行しない
  • ユーザーがターゲットサーバーでユーザー受け入れテスト(UAT)を実行する十分な機会を提供(理想的にはカットオーバーの少なくとも2週間前から開始)

監視と管理

  • Application Migration Serviceコンソールでサーバーレプリケーションステータスを頻繁に監視し、問題を早期に特定
  • エージェントインストールには永続的なIAMユーザー認証情報ではなく、一時的なAWS Identity and Access Management(IAM)認証情報を使用

大規模Lift and Shift移行の利点

AWS Application Migration Serviceの利点

  • レプリケーションのセットアップが簡単(急な学習曲線が不要)
  • ソースマシンにエージェントを展開することで迅速にスケール
  • Cloud Migration Factoryを使用してほとんどの手動タスクを自動化、複数のマシンを管理、移行ウェーブを調整
  • 幅広いx86オペレーティングシステムアーキテクチャをサポート
  • あらゆるタイプのソース環境をサポート(オンプレミスデータセンター、他のクラウド、別のAWSリージョン)
  • アプリケーションに依存しない(ソースサーバーで実行されるあらゆるアプリケーションをサポート)
  • ライセンスや購入が不要(90日間の無料期間を提供)

考慮すべき制限事項

ブロックレベルレプリケーションツール使用時の注意点

  • 共有ブロックストレージを持つクラスター化システム(Windows Server Failover ClusterやMicrosoft SQL Server Always On可用性グループクラスター)の移行には特定の手順と長いカットオーバーウィンドウが必要
  • 高いデータ変更率を持つシステム(OLTPデータベースなど)では、より高いパフォーマンスやネットワーク要件が移行作業を複雑化する可能性
  • 計画された移行とカットオーバー時間ウィンドウ内でのデータ転送量に対して十分なネットワーク帯域幅が必要

移行戦略の選択指針

用途別推奨戦略

移行要件推奨戦略適用ツール
最小限の変更で迅速な移行RehostAWS Application Migration Service
データベース移行Rehost/ReplatformAWS DMS
同一プラットフォーム内移行RelocateAWS Application Migration Service
大規模サーバー群の一括移行RehostAWS Application Migration Service + Cloud Migration Factory

成功要因

計画段階

  • 移行対象の詳細な調査とインベントリ作成
  • 適切な移行戦略の選択
  • ネットワーク帯域幅とセキュリティ要件の確認

実行段階

  • 段階的な移行アプローチの採用
  • 十分なテストとユーザー受け入れテストの実施
  • 継続的な監視と問題の早期発見

運用段階

  • 移行後の最適化とモダナイゼーション
  • コスト最適化の継続的な実施
  • セキュリティとコンプライアンスの維持

引用元: