Amazon ELB の基本と役割
Amazon Elastic Load Balancing (ELB) は、AWS クラウドにおける重要なコンピューティングサービスの一つで、アプリケーションの可用性と耐障害性を向上させるトラフィック分散サービスです。本記事では、ELB の基本的なコンセプトから、その主要なメリットまでを包括的に解説します。
Amazon Elastic Load Balancing (ELB) とは
Amazon Elastic Load Balancing (ELB) は、受信したトラフィックを複数のアベイラビリティーゾーンに存在する EC2 インスタンス、コンテナ、IP アドレスなどの複数のターゲットに自動的に分散させるサービスです。
ELB の基本動作
ロードバランサーは、登録されているターゲットの状態を常にモニタリングし、正常なターゲットにのみトラフィックをルーティングします。具体的には以下の動作を自動的に実行します:
- ヘルスチェック: 登録されたターゲットの状態を継続的に監視
- トラフィック分散: 正常なターゲットに対してリクエストを効率的に分散
- 異常検出: 異常なターゲットを検出すると、そのターゲットへのトラフィックのルーティングを中止
- 復旧検出: ターゲットが再び正常になったことを検出すると、ルーティングを再開
AWS におけるELB の位置付け
ELB は、AWS の主要なサービスの一つであるコンピューティングサービスに分類されます。AWS 認定クラウドプラクティショナー試験の対象知識に含まれており、受験者にはロードバランサーの目的を特定するスキルが求められます。
ロードバランサーを使用することで、アプリケーションの可用性と耐障害性を大幅に向上させることができ、これは AWS クラウドの主要な利点の一つとなっています。
ELB の主要なメリット
1. ワークロードの分散とスケーラビリティ
効率的なワークロード分散
ELB は、仮想サーバーなどの複数のコンピューティングリソース間でワークロードを効率的に分散させることが可能です。これにより、アプリケーションは着信トラフィックの変動に応じて、ロードバランサーの容量を自動的に拡張する能力を持ちます。
柔軟なリソース管理
アプリケーションへのリクエストの流れを中断することなく、必要に応じてコンピューティングリソースを柔軟に追加したり削除したりすることができます。これは、特にトラフィックの変動が激しいアプリケーションにおいて重要な機能です。
自動スケーリング機能
ELB は、アプリケーションへのトラフィックが時間と共に変化する際に、以下の方法でスケーラビリティを実現します:
- ロードバランサーの自動スケーリング: トラフィック量に応じて容量を動的に調整
- DNS エントリの自動更新: スケーリング時にエンドポイントを自動的に最適化
- シームレスな拡張: サービス中断なしでの容量調整
この「伸縮性」と「俊敏性」は、AWS クラウドの利点として挙げられており、ELB がその実現に大きく貢献しています。
2. 高可用性と耐障害性
ヘルスチェック機能
ELB は、アプリケーションの高可用性と耐障害性を著しく向上させます。ロードバランサーは、登録されているターゲットのヘルス状態を継続的にチェックするためのヘルスチェック機能を提供し、これにより、トラフィックが健全なターゲットにのみ確実に送信されるようにします。
マルチアベイラビリティーゾーン構成
AWS は、すべてのロードバランサーに対して複数のアベイラビリティーゾーンを有効にすることを推奨しています。特に Application Load Balancer では、最低2つ以上のアベイラビリティーゾーンを有効にすることが必須です。
自動フェイルオーバー機能
マルチ AZ 構成により、以下のような高可用性が実現されます:
- 障害の局所化: 1つのアベイラビリティーゾーンが利用できなくなった場合の自動対応
- シームレスな切り替え: 正常なターゲットがなくなったゾーンから他の利用可能なゾーンへの自動切り替え
- 継続的なサービス提供: 障害発生時もアプリケーションサービスの継続
AWS グローバルインフラストラクチャとの連携
AWS のグローバルインフラストラクチャは、物理的に独立し、かつ互いに隔離された複数のアベイラビリティーゾーンを中心に構築されています。これにより、アプリケーションやデータベースをゾーン間で中断なく自動的にフェイルオーバーするように設計および運用することが可能になります。
3. セキュリティとパフォーマンスの向上
暗号化処理のオフロード
ELB は、セキュリティ機能の提供を通じてアプリケーションのパフォーマンス最適化にも貢献します。ロードバランサーに暗号化および復号のタスクをオフロードすることで、背後のコンピューティングリソースが主要なアプリケーションワークロードに集中できるようになります。
セキュアなウェブアプリケーション構築
セキュアなウェブアプリケーションを構築する際には、ロードバランサーでクライアントからのHTTPS および TLS トラフィックを終端させることでプロセスが簡素化されます。
ロードバランサーは、以下の要素を使用してトラフィックの暗号化と復号化を実行します:
- 指定された暗号スイート: セキュリティ要件に応じた暗号化方式
- プロトコルバージョン: TLS 1.2 必須、TLS 1.3 推奨
- サーバー証明書: AWS Certificate Manager または IAM で管理
厳格なセキュリティ基準
ELB は、AWS のグローバルネットワークセキュリティによって保護されたマネージドサービスであり、以下の厳格なセキュア通信プロトコルをサポートしています:
- TLS 1.2 が必須: 業界標準のセキュリティプロトコル
- TLS 1.3 が推奨: より高度なセキュリティと性能
- 厳格な暗号化基準: AWS セキュリティベストプラクティスに準拠
パフォーマンス最適化機能
Application Load Balancer では、以下のパフォーマンス向上機能を提供します:
HTTP/2 プロトコルサポート
- HTTP/2 プロトコルをサポートしており、HTTP/2 接続を通じて最大128のリクエストを並行して送信できるため、パフォーマンスの向上に寄与します
- 接続の多重化により、レイテンシーが改善され、アプリケーションの負荷が軽減されます
AWS WAF との統合
Application Load Balancer ではAWS WAFを利用することができ、以下のセキュリティ機能を提供します:
- ウェブアクセスコントロールリスト(ウェブACL): 詳細なアクセス制御ルールの設定
- リクエストの許可・ブロック: ルールベースでのトラフィック制御
- アプリケーション層でのセキュリティ強化: L7 レベルでの保護
ELB の導入による効果
運用効率の向上
- 管理の簡素化: 自動化された負荷分散により手動での調整が不要
- 監視の一元化: 統合されたモニタリングによる運用負荷の軽減
- 保守性の向上: AWS マネージドサービスによる運用負荷の削減
コスト最適化
- リソースの効率的利用: 需要に応じたスケーリングによるコスト削減
- 運用コストの削減: 自動化による人的リソースの最適化
- 予測可能な課金: 使用量ベースの明確な料金体系
ビジネス継続性の確保
- サービス中断の最小化: 高可用性設計による安定したサービス提供
- 障害の影響範囲の限定: 自動フェイルオーバーによる迅速な復旧
- ユーザーエクスペリエンスの向上: 安定したレスポンス時間の実現
まとめ
Amazon ELB は、AWS クラウドにおける重要なコンピューティングサービスとして、アプリケーションの可用性、スケーラビリティ、セキュリティを包括的に向上させる強力なソリューションです。
ELB の主要な価値
- 自動化された負荷分散: トラフィックの効率的な分散と管理
- 高可用性の実現: マルチ AZ 構成による耐障害性
- セキュリティの強化: TLS 終端と AWS WAF の統合
- パフォーマンスの最適化: HTTP/2 サポートと接続多重化
- 運用負荷の軽減: AWS マネージドサービスとしての自動化
適用シーン
ELB は、以下のような場面で特に有効です:
- トラフィックが変動するウェブアプリケーション
- 高可用性が要求されるミッションクリティカルなシステム
- セキュリティ要件が厳しいエンタープライズアプリケーション
- グローバルに展開されるサービス
ELB の導入により、開発チームはインフラストラクチャの管理から解放され、アプリケーションの価値創造に集中できるようになります。AWS クラウドの「伸縮性」と「俊敏性」を最大限に活用し、ビジネス要件に応じたスケーラブルなアーキテクチャを構築することが可能になります。
参考リンク
- Elastic Load Balancing 公式ドキュメント
- Application Load Balancer ユーザーガイド
- AWS WAF 公式ドキュメント
- AWS Certificate Manager 公式ドキュメント
関連記事: Amazon EC2 の基本ガイド