Amazon Inspector入門 - AWS環境の自動脆弱性評価を始める
クラウド環境でのセキュリティ管理は、従来の手動チェックでは追いつかない複雑さと規模になっています。Amazon Inspectorは、AWS環境での脆弱性評価を完全に自動化し、継続的なセキュリティ監視を実現するマネージドサービスです。設定は数分で完了し、即座にセキュリティリスクの可視化が始まります。
Amazon Inspectorとは
Amazon Inspectorは、AWSワークロードのセキュリティ脆弱性を自動的に検出・評価するサービスです。EC2インスタンス、コンテナイメージ、Lambda関数を対象に、ソフトウェアの脆弱性やネットワーク到達可能性の問題を継続的にスキャンします。
従来の手動セキュリティチェックとは根本的に異なり、Inspectorは新しいリソースを自動で検出し、即座にスキャンを開始します。CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)データベースの更新に応じて、既存のリソースを再評価する仕組みも備えています。
なぜ脆弱性評価の自動化が必要なのか
手動管理の限界
現代のクラウド環境では、リソースが動的に作成・削除され、アプリケーションが頻繁に更新されます。手動でのセキュリティチェックでは、以下の問題が発生します。
スケーラビリティの問題 数十から数千のリソースを人手で継続的に監視することは現実的ではありません。新しいインスタンスが作成されるたびに手動でチェックを実行していては、運用が破綻してしまいます。
見落としのリスク 複雑な環境では、チェック対象の漏れや評価基準の不統一が発生しがちです。特に開発チームが独立してリソースを作成する環境では、セキュリティチェックが後回しになるケースが多発します。
対応の遅れ 新しい脆弱性情報が公開されてから、該当するすべてのリソースを特定し評価するまでに数日から数週間かかることがあります。この間に攻撃者に悪用されるリスクが高まります。
自動化による解決
Amazon Inspectorの自動化により、これらの課題は根本的に解決されます。新しいリソースは作成と同時に評価が開始され、新しい脅威情報に対してもリアルタイムで対応できます。
Amazon Inspectorの対象リソース
EC2インスタンス
EC2インスタンスでは、オペレーティングシステムとインストールされているソフトウェアパッケージが評価対象となります。Linux系ディストリビューション(Amazon Linux、Ubuntu、CentOS、RHEL)とWindows Serverの両方がサポートされています。
Systems Manager(SSM)エージェントを通じてソフトウェアインベントリを収集し、各パッケージのバージョンと既知の脆弱性を照合します。ネットワーク到達可能性の評価では、セキュリティグループとネットワークACLの設定も分析されます。
コンテナイメージ(ECR)
ECR(Elastic Container Registry)に保存されているコンテナイメージは、プッシュ時に自動的にスキャンされます。イメージ内のOSパッケージとアプリケーションライブラリの両方が評価対象です。
重要なのは、基底レイヤーから最上位レイヤーまでのすべてのレイヤーが個別に評価される点です。これにより、どのレイヤーで脆弱性が導入されたかを特定でき、効率的な修復が可能になります。
Lambda関数
Lambda関数では、関数コードとレイヤーに含まれる依存関係が評価されます。Python、Node.js、Javaなどの一般的なランタイムで使用されるライブラリパッケージの脆弱性が重点的にチェックされます。
セキュリティエコシステムでの位置づけ
Amazon Inspectorは、AWSのセキュリティサービス群の中で「脆弱性評価」の役割を担います。他のサービスとの関係性を理解することで、包括的なセキュリティ戦略を構築できます。
GuardDutyとの違い GuardDutyが「脅威検出」に特化するのに対し、Inspectorは「脆弱性評価」に特化します。GuardDutyは進行中の攻撃を検出し、Inspectorは攻撃される前の脆弱性を特定します。
Security Hubとの連携 Security Hubは両者の検出結果を統合し、一元的なセキュリティダッシュボードを提供します。Inspectorの脆弱性情報とGuardDutyの脅威情報を組み合わせることで、包括的なリスク評価が可能になります。
次のステップ
Amazon Inspectorの基本概念を理解したら、実際の実装と設定について学習を進めましょう。次の記事では、具体的な有効化手順と設定のベストプラクティスを詳しく解説します。