Amazon Inspector実装ガイド - 効果的な設定と運用方法

Amazon Inspectorの基本概念を理解したら、次は実際の環境への導入です。この記事では、Inspectorの有効化から効果的な設定まで、実装の具体的な手順とベストプラクティスを解説します。組織規模での運用を想定した設定方法や、他のAWSサービスとの統合についても詳しく説明します。

導入前の準備

必要な権限とロールの設定

Amazon Inspectorを効果的に運用するためには、適切なIAM権限の設定が重要です。特に組織全体での運用を行う場合は、委任管理者アカウントの設定が必要になります。

必要なサービス権限

  • Amazon Inspector の管理権限
  • EC2 インスタンスへのSSM関連権限
  • ECR レジストリへのアクセス権限
  • Lambda 関数への読み取り権限

組織管理者の設定 AWS Organizations を使用している場合は、セキュリティ専用アカウントを委任管理者として設定することで、全アカウントのInspector設定を一元管理できます。

対象リソースの整理

導入前に、スキャン対象となるリソースを整理しておくことが重要です。特に以下の観点で分類を行います。

環境別の分類 本番環境、ステージング環境、開発環境では、脆弱性に対する対応の緊急度が異なります。環境に応じた通知設定や修復ポリシーを事前に決定しておきます。

システム種別の分類 インターネット公開サービス、内部システム、バッチ処理システムなど、システムの性質に応じてリスク評価の基準を調整します。

有効化とスキャン設定

基本的な有効化手順

Amazon Inspectorの有効化は、AWSコンソール、CLI、またはAPIを通じて実行できます。組織での運用では、CloudFormationやTerraformを使用したコード化された設定が推奨されます。

ECR画像スキャンの設定 Enhanced Scanning を有効化することで、OSパッケージに加えてプログラミング言語パッケージの脆弱性も検出されます。Basic Scanning では OSパッケージのみが対象となります。

Lambda関数スキャンの設定 Lambda関数では、コードパッケージと関数レイヤーが自動的にスキャンされます。依存関係の管理ファイル(requirements.txt、package.jsonなど)が解析され、ライブラリの脆弱性が特定されます。

継続的監視の設定

Amazon Inspectorは、一度有効化すると継続的な監視を自動実行します。新しいリソースの自動検出、CVE情報の更新に応じた再評価、リソース変更時の自動スキャンが実行されます。

新しいCVE情報への対応 毎日更新される脅威データベースに基づいて、既存のリソースが自動的に再評価されます。以前は安全だったソフトウェアに新しい脆弱性が発見された場合、数時間以内に該当するリソースで問題が特定されます。

検出結果の管理と優先度付け

Inspector Scoreによる優先度判定

Amazon Inspectorは、単純なCVSSスコアではなく、独自のInspector Scoreを使用してリスクを評価します。0から10の範囲で評価され、環境固有の要因が考慮されます。

評価要因

  • ネットワーク到達可能性
  • 悪用可能性(エクスプロイトの存在)
  • Amazon 脅威インテリジェンス
  • リソースの重要度

優先度設定のベストプラクティス High(7.0以上)の脆弱性は即座に対応し、Medium(4.0-6.9)は週次で確認、Low(4.0未満)は月次レビューで対応するなど、組織のリスク許容度に応じた運用ルールを設定します。

抑制ルールの活用

誤検知や承認済みリスクについては、抑制(suppression)ルールを使用して適切に管理します。ただし、抑制ルールは定期的に見直しが必要です。

抑制ルール設定の考慮事項

  • リスクの承認期限の設定
  • 定期的な再評価の仕組み
  • 変更管理プロセスとの連携

他のAWSサービスとの統合

Security Hubとの連携

Amazon InspectorはAWS Security Hubとネイティブに統合されており、検出された脆弱性は自動的にSecurity Hubに送信されます。Security Hubでは、ASFF(AWS Security Finding Format)形式で標準化されて表示されます。

統合によるメリット

  • 複数のセキュリティサービスの結果を一元管理
  • カスタムダッシュボードの作成
  • 統一されたワークフローの構築
  • コンプライアンス状況の可視化

Systems Managerとの自動修復

AWS Systems Manager Patch Managerとの連携により、検出された脆弱性の自動修復が可能です。特に重要度の高い脆弱性については、自動パッチ適用のワークフローを設定できます。

アラート通知の設定

Amazon SNS、Amazon EventBridge、AWS Chatbotを組み合わせることで、柔軟な通知システムを構築できます。

通知設定のベストプラクティス

  • 緊急度に応じた通知先の分類
  • Slack、Microsoft Teams等への即座通知
  • セキュリティチームへのエスカレーション設定
  • 週次・月次のサマリーレポート自動送信

運用の効率化

タグベースの管理

AWSリソースタグを活用することで、Inspector の結果をより効率的に管理できます。環境、チーム、プロジェクト別の分類により、適切な担当者への通知や責任の明確化が可能になります。

推奨タグ設定

  • Environment(本番/ステージング/開発)
  • Team(開発チーム名)
  • Application(アプリケーション名)
  • Owner(責任者)
  • Criticality(重要度)

定期的なレビューとプロセス改善

Inspector の運用では、定期的なレビューとプロセス改善が重要です。月次でのKPI確認、四半期でのプロセス見直しを実施し、継続的な改善を図ります。

主要なKPI指標

  • 平均修復時間(MTTR)
  • 高リスク脆弱性の未解決期間
  • 誤検知率
  • 自動修復成功率

まとめ

Amazon Inspectorの効果的な実装は、適切な初期設定と継続的な運用改善にかかっています。他のAWSサービスとの統合により、検出から修復までの完全自動化も可能です。次のステップでは、より高度なベストプラクティスと運用の最適化について学習しましょう。