VPC接続方式比較・選択ガイド - 最適なネットワーキング戦略
AWSにおけるVPC接続には複数の選択肢があり、それぞれ異なる特徴とメリットを持ちます。適切な接続方式の選択は、性能、セキュリティ、コスト、運用性のバランスを考慮した戦略的判断が必要です。本ガイドでは、各接続方式の詳細比較と企業規模別の推奨アーキテクチャを提供します。
接続方式の全体比較
主要接続オプション一覧
詳細比較マトリックス
技術仕様比較
項目 | VPC Peering | Transit Gateway | Direct Connect | Site-to-Site VPN | Client VPN | PrivateLink |
---|---|---|---|---|---|---|
最大帯域幅 | 制限なし | 50Gbps同一AZ | 100Gbps | 1.25Gbps/トンネル | 接続数依存 | 制限なし |
接続数制限 | 125/VPC | 5,000 VPC | 複数VIF | 複数接続可 | 20,000同時接続 | サービス別 |
レイテンシー | 最低 | 低 | 最低 | 中(暗号化負荷) | 中 | 低 |
暗号化 | なし | なし | MACsec対応 | IPsec必須 | SSL/TLS | なし |
設定複雑性 | 低 | 中 | 高 | 中 | 中 | 低-中 |
可用性 | AWS管理 | AWS管理 | SLA 99.9% | AWS管理 | AWS管理 | AWS管理 |
コスト構造比較
サービス | 初期費用 | 月額固定費 | 従量課金 | 小規模 | 中規模 | 大規模 |
---|---|---|---|---|---|---|
VPC Peering | なし | なし | データ転送のみ | ◎ | ○ | △ |
Transit Gateway | なし | $36/月 | データ処理+転送 | △ | ◎ | ◎ |
Direct Connect | クロスコネクト | ポート料金 | データ転送 | × | ○ | ◎ |
Site-to-Site VPN | なし | $36/月 | データ転送 | ◎ | ○ | ○ |
Client VPN | なし | エンドポイント | 接続時間+データ | ○ | ○ | △ |
PrivateLink | なし | エンドポイント | データ処理 | ○ | ○ | ○ |
企業規模別推奨アーキテクチャ
小規模企業(VPC数: 2-5個)
推奨構成: シンプル・コスト重視
選択理由
- Site-to-Site VPN: 低コストで迅速な導入
- VPC Peering: 最小限のVPC間接続で管理が簡単
- 総コスト: 月額約$50-100(VPN + データ転送)
中規模企業(VPC数: 5-20個)
推奨構成: バランス重視
選択理由
- Transit Gateway: 中央集約管理とスケーラビリティ
- Site-to-Site VPN: 複数拠点からの接続
- セグメンテーション: ルートテーブルによる環境分離
大規模企業(VPC数: 20個以上)
推奨構成: エンタープライズグレード
選択理由
- Direct Connect: 高帯域幅・低レイテンシー要件
- Transit Gateway: 大規模VPC管理
- リージョン間Peering: グローバル展開とDR対応
選択判断フローチャート
段階的意思決定プロセス
実用的選択基準
技術要件による選択
高帯域幅・低レイテンシー必須
- 第1選択: Direct Connect(専用線)
- 第2選択: Multiple VPN Connections
- 適用例: 大容量データ転送、リアルタイム処理
迅速な導入が必要
- 第1選択: Site-to-Site VPN
- 第2選択: VPC Peering
- 適用例: PoC、一時的な接続、緊急時対応
高セキュリティ要件
- 第1選択: Direct Connect + PrivateLink
- 第2選択: Site-to-Site VPN with strong encryption
- 適用例: 金融機関、医療機関、政府機関
ビジネス要件による選択
コスト最優先
小規模: VPC Peering + Site-to-Site VPN
中規模: Transit Gateway + Site-to-Site VPN
大規模: Direct Connect(長期的にはコスト効率良い)
管理負荷軽減優先
小規模: VPC Peering(シンプル)
中規模: Transit Gateway(中央集約)
大規模: Transit Gateway + Direct Connect Gateway
将来の拡張性重視
すべての規模: Transit Gateway(スケーラビリティ最優先)
ハイブリッド設計パターン
冗長性確保パターン
プライマリ・バックアップ構成
段階的移行パターン
Phase 1: VPN接続でスタート
初期導入: Site-to-Site VPN
メリット: 低コスト、迅速導入
期間: 3-6ヶ月
Phase 2: Direct Connect追加
成長段階: Direct Connect + VPN(バックアップ)
メリット: 高性能、冗長性確保
期間: 6-24ヶ月
Phase 3: Transit Gateway統合
成熟段階: Transit Gateway + Direct Connect Gateway
メリット: 大規模管理、複数リージョン対応
期間: 24ヶ月以降
運用考慮事項
監視・管理の複雑性
シンプル(VPC Peering)
- 監視対象: 個別ピアリング接続
- 管理ツール: VPC Dashboard
- 運用負荷: 低
中程度(Transit Gateway)
- 監視対象: TGWメトリクス、ルートテーブル
- 管理ツール: Transit Gateway Console + CloudWatch
- 運用負荷: 中
複雑(Direct Connect)
- 監視対象: 物理回線、BGPセッション、VIFステータス
- 管理ツール: Direct Connect Console + 外部監視
- 運用負荷: 高
障害復旧時間(RTO)
接続方式 | 一般的なRTO | 設計による短縮 |
---|---|---|
VPC Peering | 15-30分 | 自動復旧(AWS管理) |
Transit Gateway | 5-15分 | BGP Convergence |
Direct Connect | 30-120分 | 冗長回線で<5分 |
Site-to-Site VPN | 30-60秒 | BGP+DPDで<30秒 |
総合推奨事項
スタートアップ・小規模企業
- 初期: VPC Peering + Site-to-Site VPN
- 成長時: Transit Gatewayへ移行検討
- 重要: シンプルさと低コストを重視
中堅企業
- 基盤: Transit Gateway中心設計
- 接続: Site-to-Site VPN + PrivateLink
- 重要: スケーラビリティと管理性のバランス
大企業・エンタープライズ
- 基盤: Transit Gateway + Direct Connect
- セキュリティ: PrivateLink + MACsec暗号化
- 重要: 性能、セキュリティ、グローバル展開対応
業界別特記事項
金融業界
- Direct Connect必須(規制要件)
- PrivateLink活用(データ保護)
- 冗長性設計(可用性99.9%以上)
製造業
- 工場との低レイテンシー接続(Direct Connect)
- IoTデータ用高帯域幅(複数Direct Connect)
- グローバル拠点統合(Transit Gateway Peering)
IT・SaaS企業
- マルチテナント設計(PrivateLink)
- リモートワーク対応(Client VPN)
- 迅速な拡張(Transit Gateway)
適切なVPC接続方式の選択は、現在の要件だけでなく将来の成長と変化を見据えた戦略的判断が重要です。段階的な移行計画を立て、ビジネスの成長に合わせて最適化していくことを推奨します。