Amazon CloudWatch 基本概念と監視戦略

Amazon CloudWatchは、AWSリソースとアプリケーションのパフォーマンスを監視するAWSの中核サービスです。メトリクスの収集・可視化、ログの一元管理、自動アラート機能により、システムの健全性確保と問題の早期発見を実現します。本記事では、CloudWatchの基本概念から実用的な設定方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。

CloudWatch とは

基本的な仕組み

CloudWatchは、AWSの「監視・モニタリングサービス」です。AWS上で動作するアプリケーションやインフラストラクチャの状態をリアルタイムで監視し、問題が発生した際には自動で通知・対応できます。

CloudWatchの主要機能

1. メトリクス監視

  • CPU使用率、メモリ使用量、ネットワークトラフィックなどの時系列データ
  • AWSサービスから自動収集される標準メトリクス
  • アプリケーション独自のカスタムメトリクス

2. アラーム機能

  • メトリクスの闾値監視と自動アラート
  • SNSやLambdaと連携した通知・自動対応
  • 複数条件を組み合わせた複合アラーム

3. ログ管理 (CloudWatch Logs)

  • アプリケーションログの一元集約
  • ログ検索・フィルタリング機能
  • ログベースのメトリクス生成

4. ダッシュボード

  • メトリクスのグラフ表示と可視化
  • リアルタイム監視ダッシュボードの作成
  • チーム共有のためのダッシュボード公開

監視アーキテクチャの考え方

監視が必要な理由

  • システムの健全性を維持し、ダウンタイムを防ぐ
  • パフォーマンスの問題を早期発見し、ユーザー体験を向上させる
  • コスト最適化のためのデータを収集する
  • コンプライアンスやセキュリティ要件への対応

監視設計の基本原則

  1. 重要指標の特定: ビジネスに直接影響するメトリクスを優先
  2. 闾値の適切設定: 過敏でも過小でもないバランスの取れたアラート
  3. 階層化された監視: アプリケーションからインフラまで全レイヤーをカバー
  4. 自動化: マニュアルな対応を最小限にし、自動復旧を目指す

監視対象の例

レイヤー主な監視項目メトリクス例
アプリケーションレスポンス時間・エラー率リクエスト数・4XX/5XXエラー
ミドルウェアデータベース接続数コネクションプール・トランザクション
インフラCPU・メモリ使用率システムリソース・ネットワーク

メトリクスの活用方法

AWS標準メトリクスの理解

AWSサービスは、サービスごとに異なるメトリクスを自動的にCloudWatchに送信します。

EC2インスタンスの主要メトリクス

  • CPUUtilization: プロセッサ使用率(%)
  • NetworkIn/NetworkOut: ネットワークトラフィック量
  • DiskReadOps/DiskWriteOps: ディスクI/O操作回数
  • StatusCheckFailed: インスタンスの健全性状態

RDSデータベースの主要メトリクス

  • DatabaseConnections: データベース同時接続数
  • CPUUtilization: DBインスタンスのCPU使用率
  • FreeableMemory: 使用可能なメモリ量
  • ReadLatency/WriteLatency: データベースの読み書き応答時間

メトリクスの見方・活用方法

  1. AWSコンソールでの確認: CloudWatchコンソールからグラフで可視化
  2. トレンド分析: 時間経過による変化パターンの把握
  3. 闾値設定: 正常範囲を超えた際のアラート設定
  4. 相関分析: 複数メトリクスの組み合わせで原因特定

カスタムメトリクスの活用

カスタムメトリクスが必要な理由

AWSが提供する標準メトリクスだけでは、アプリケーション固有のビジネス指標やユーザー体験を測定できません。カスタムメトリクスで以下のような情報を収集できます:

ビジネスメトリクスの例

  • ユーザーアクティビティ: ログイン数、ページビュー数、コンバージョン率
  • アプリケーションパフォーマンス: 処理時間、キュー長、エラー率
  • ビジネスKPI: 売上金額、注文件数、顧客満足度

カスタムメトリクスの作成方法

  1. AWS SDKでの送信 アプリケーションコードからAWS SDKを使用してメトリクスを送信します。各プログラミング言語(Node.js、Python、Java等)のSDKでPutMetricData APIを呼び出すことで、アプリケーション固有の指標をCloudWatchに送信できます。

  2. CloudWatch Agentでのログ連携 CloudWatch Agentをインストールしてログファイルから自動的にメトリクスを生成します。設定ファイルでログのパターンとメトリクス変換ルールを定義することで、ログエントリをメトリクス値に変換できます。

AWSコンソールでのカスタムメトリクス確認方法

  1. CloudWatchコンソールで「メトリクス」を選択
  2. 「すべてのメトリクス」から独自の名前空間を選択
  3. メトリクス名を選択してグラフ表示で数値を確認

アラーム設定の基本

アラームの仕組みと作成手順

アラームの基本的な仕組み

CloudWatchアラームは、メトリクスが設定された閾値を超えた場合に自動的に通知・対応を行う機能です。

アラーム設定の要素

  • メトリクス: 監視対象となる指標(CPU使用率、エラー率など)
  • 閾値: アラームが発火する基準値
  • 評価期間: 閾値を超過していることを確認する期間数
  • アクション: アラーム発火時に実行される処理

AWS コンソールでのアラーム作成手順

  1. CloudWatchコンソールで「アラーム」→「アラームの作成」を選択
  2. 監視対象のメトリクスを選択(例:EC2のCPUUtilization)
  3. 閾値と評価条件を設定(例:80%以上が5分間継続)
  4. 通知先を設定(SNSトピック経由でメール通知など)
  5. アラーム名と説明を設定して作成完了

効果的なアラーム設計のポイント

  • 重要度に応じた分類: Critical、Warning、Infoレベルでの分類
  • 適切な閾値設定: 業務影響度に基づく現実的な基準値
  • 通知疲れの防止: 頻繁すぎるアラートによる重要性低下の回避

アラーム設定の具体的手順

基本的なアラームの設定要素

  • メトリクス: 監視対象となる指標の選択
  • 閾値: アラートを発火させる基準値の設定
  • 評価期間: 閾値超過の継続時間設定
  • 通知アクション: SNSトピックやメール送信設定

AWSコンソールでのアラーム作成の詳細手順

  1. CloudWatchコンソールで「アラーム」→「アラームの作成」を選択
  2. 監視対象のメトリクスを選択(例:EC2のCPUUtilization)
  3. 統計方法(平均、最大、最小)と期間を設定
  4. 閾値と比較条件を設定(例:80%以上)
  5. 評価期間を設定(例:2期間中2期間で条件を満たした場合)
  6. アラーム状態時のアクションを設定(SNSトピック選択)
  7. アラーム名と説明文を入力して作成完了

設定時のベストプラクティス

  • アラーム名は分かりやすい命名規則を使用(例:サービス名-メトリクス名-閾値)
  • 通知疲れを避けるため、重要度に応じて閾値を調整
  • テスト通知で動作確認を必ず実施

ログ管理の基本

CloudWatch Logs の活用

CloudWatch Logs とは

CloudWatch Logsは、AWSリソースやアプリケーションからのログを一元管理するサービスです。ログの保管、検索、分析が可能で、問題の原因特定や傾向分析に役立ちます。

主要機能

  • ログの一元集約: EC2、Lambda、ECSなど各種AWSサービスのログを統合
  • リアルタイム監視: ログの内容をリアルタイムで確認
  • ログ検索・フィルタリング: キーワードやパターンでログを絞り込み
  • メトリクス化: ログの内容をメトリクスとして可視化

ログ検索と分析の基本

CloudWatch Logs Insightsとは

CloudWatch Logs Insightsは、大量のログデータから必要な情報を効率的に検索・分析できる機能です。SQLライクなクエリ言語を使用してログの内容を絞り込み、パターンを発見できます。

基本的な検索操作

  • キーワード検索: 「ERROR」や「WARNING」などの特定の文字列でログを絞り込み
  • 時間範囲指定: 特定の期間内のログのみを対象に分析
  • フィールド抽出: ログメッセージから特定の情報(IPアドレス、ユーザーIDなど)を抽出
  • 統計処理: ログ件数の集計やエラー率の計算

AWSコンソールでのCloudWatch Logs Insights使用手順

  1. CloudWatchコンソールで「ログ」→「Logs Insights」を選択
  2. 対象のロググループを選択
  3. 時間範囲を設定(例:過去1時間、過去24時間)
  4. クエリボックスに検索条件を入力
  5. 「クエリを実行」をクリックして結果を表示

ログフィルターの設定手順(AWSコンソール)

  1. CloudWatchコンソールで「ログ」→「ロググループ」を選択
  2. 対象のロググループを選択
  3. 「アクション」→「メトリクスフィルターを作成」
  4. フィルターパターンを設定(例:ERROR、WARNING)
  5. メトリクス名と名前空間を設定
  6. フィルターを作成して完了

効果的なログ分析のポイント

  • エラーパターンの定期的な分析でシステムの健全性を把握
  • アクセスログから利用傾向やパフォーマンス問題を特定
  • セキュリティログで不正アクセスの兆候を早期発見

ダッシュボードの基本

CloudWatchダッシュボードとは

ダッシュボードの役割

CloudWatchダッシュボードは、メトリクスやログをグラフィカルに表示する機能です。複数のリソースの状況を一画面で確認でき、リアルタイムの監視や傾向分析に活用できます。

主な特徴

  • リアルタイム表示: メトリクスの最新値を自動更新
  • カスタマイズ可能: 表示するメトリクスや期間を自由に設定
  • チーム共有: ダッシュボードを他のメンバーと共有
  • 複数リージョン対応: 異なるリージョンのリソースを統合表示

ダッシュボードの作成手順

AWSコンソールでの基本操作

  1. CloudWatchコンソールで「ダッシュボード」を選択
  2. 「ダッシュボードの作成」をクリック
  3. ダッシュボード名を入力して作成
  4. 「ウィジェットを追加」でグラフを追加
  5. メトリクスを選択してウィジェット設定を完了

ウィジェットの種類

  • 線グラフ: 時系列データの推移を表示
  • 数値: 現在の値をシンプルに表示
  • ゲージ: 閾値との比較を視覚的に表示
  • ログ: CloudWatch Logsの検索結果を表示

効果的なダッシュボード設計のポイント

  • 目的の明確化: 何を監視したいかを事前に整理
  • 情報の優先順位: 重要な情報を画面上部に配置
  • 適切な時間範囲: 用途に応じて1時間〜24時間で設定
  • 色分けの活用: 正常・警告・異常を色で区別

まとめ

Amazon CloudWatchは、AWS環境での監視の出発点となる重要なサービスです。本記事で解説した基本機能を活用することで、システムの健全性を保ち、問題の早期発見が可能になります。

CloudWatch活用の基本ステップ

  1. メトリクス確認: まずは標準メトリクスでリソースの状況を把握
  2. アラーム設定: 重要な指標に閾値を設定して自動通知を実現
  3. ログ管理: アプリケーションログの一元化で問題の原因を特定
  4. ダッシュボード作成: 関係者全員が状況を把握できる可視化環境を構築

監視は継続的な改善が重要です。最初は基本的な設定から始めて、運用しながら徐々に監視精度を高めていくことをお勧めします。