AWS DataSync 概要

AWS DataSync は、オンプレミスストレージと AWS クラウド間、または AWS ストレージサービス間でのデータ転送を自動化・高速化するマネージドサービスです。手作業でのデータコピーから解放され、安全で効率的なデータ移行と継続的な同期を実現します。

データ転送の課題

従来のデータ転送では、以下のような課題がありました:

  • 大容量データの転送に長時間を要する
  • 転送中のデータ破損や不整合のリスク
  • ネットワーク帯域の効率的な活用が困難
  • 手作業による転送作業の負荷とミス

DataSync は、これらの課題を自動化と最適化により解決します。

主要な特徴

高速データ転送

並列処理と転送最適化により、従来の転送方法と比較して大幅な高速化を実現します。ネットワーク環境や転送条件により性能は変動しますが、多くの場合で従来手法より高速な転送が可能です。

自動データ検証

転送されたデータの整合性を自動的に検証し、ソースとターゲット間でデータが正確にコピーされていることを保証します。

増分転送

初回転送後は変更されたファイルのみを転送するため、継続的な同期が効率的に行えます。

対応ストレージシステム

ソース側ストレージ

  • Network File System (NFS):Linux/Unix システムの標準ファイル共有
  • Server Message Block (SMB):Windows システムのファイル共有
  • Hadoop Distributed File System (HDFS):ビッグデータ分析基盤
  • Object Storage:S3 互換オブジェクトストレージ

ターゲット側ストレージ

  • Amazon S3:オブジェクトストレージ(全ストレージクラス対応)
  • Amazon EFS:フルマネージド NFS ファイルシステム
  • Amazon FSx:高性能ファイルシステム(Windows File Server、Lustre、NetApp、OpenZFS)

主要機能

スケジュール実行

定期的なデータ同期を自動実行できます。日次、週次、月次などの柔軟なスケジュール設定が可能です。

帯域幅制御

ネットワーク帯域の使用量を制限し、業務システムへの影響を最小限に抑制できます。

暗号化サポート

転送中および保存時のデータ暗号化により、セキュアなデータ転送を保証します。

ログ機能

転送状況の詳細ログと Amazon CloudWatch との統合により、転送プロセスの監視と分析が可能です。

活用シーン

クラウド移行プロジェクト

オンプレミスのファイルサーバーから AWS ストレージへの大規模データ移行で中核的な役割を果たします。

移行例

  • 社内 NAS → Amazon S3(アーカイブ)
  • Windows ファイルサーバー → Amazon FSx for Windows File Server
  • Linux ファイルサーバー → Amazon EFS

データレイク構築

様々なデータソースから Amazon S3 にデータを集約し、分析基盤を構築する際に活用されます。

ハイブリッドストレージ環境

オンプレミスとクラウド間で継続的なデータ同期を行い、両方の環境でデータを活用できます。

バックアップとアーカイブ

重要なオンプレミスデータを AWS にバックアップし、災害復旧やコンプライアンス要件に対応します。

コンテンツ配信

メディアファイルやデジタル資産を Amazon S3 + CloudFront 経由で効率的に配信するために活用されます。

料金体系

DataSync の料金は、転送されたデータ量に基づいて課金されます:

転送方向料金体系
オンプレミス → AWS転送データ量あたり
AWS → オンプレミス転送データ量あたり + データ転送料金
AWS 内転送転送データ量あたり

継続的な同期では、増分転送により料金を大幅に削減できます。

DataSync Agent

オンプレミス環境との連携には DataSync Agent の導入が必要です:

導入形態

  • VM イメージ:VMware ESXi、KVM、Microsoft Hyper-V
  • ハードウェアアプライアンス:専用ハードウェアでの高性能転送
  • Amazon EC2:AWS 上の仮想マシンとしても展開可能

Agent の役割

  • オンプレミスストレージへのアクセス
  • データ転送の最適化とエラー処理
  • AWS との安全な通信の確立

セキュリティ機能

データ暗号化

  • 転送中:TLS 1.2 による暗号化
  • 保存時:AWS Key Management Service (KMS) による暗号化

アクセス制御

  • IAM ポリシーによる細かいアクセス権限設定
  • VPC エンドポイントによるプライベート通信

監査機能

  • AWS CloudTrail との統合による操作ログ記録
  • 転送履歴の詳細追跡

導入メリット

作業効率の向上

手作業でのデータコピー作業から解放され、IT 担当者はより戦略的な業務に専念できます。

転送品質の保証

自動データ検証により、転送エラーや不整合を防止できます。

コスト削減

効率的な増分転送により、ネットワーク使用料とストレージコストを削減できます。

運用負荷の軽減

スケジュール実行と自動監視により、継続的なデータ管理の運用負荷を大幅に軽減できます。

まとめ

AWS DataSync は、データ転送の複雑さを取り除き、安全で効率的なデータ移行・同期を実現するマネージドサービスです。

高速転送、自動検証、柔軟なスケジューリング機能により、以下のユースケースで大きな価値を提供します:

  • クラウド移行プロジェクトでの大規模データ移行
  • データレイク構築での継続的なデータ投入
  • ハイブリッド環境での定期的なデータ同期
  • 災害復旧用のバックアップ自動化

特にデータ量が多く、継続的な同期が必要な環境において、DataSync は運用効率化とコスト削減を同時に実現する重要なサービスです。データ中心の移行戦略を検討している組織にとって、検討価値の高いソリューションといえるでしょう。