AWS Application Discovery Service 概要
AWS Application Discovery Service は、オンプレミス環境のアプリケーションとインフラストラクチャを自動的に検出・分析し、クラウド移行計画の策定を支援するサービスです。「見えないものは管理できない」という課題を解決し、データに基づいた効率的な移行戦略の立案を可能にします。
移行前に直面する課題
多くの組織が抱える移行前の課題として以下があります:
- 社内システムの全容が把握できていない
- アプリケーション間の依存関係が複雑で不明
- リソース使用量の実態が分からない
- 移行対象の優先順位が決められない
Application Discovery Service は、これらの課題を自動化により解決します。
主要な機能
自動インベントリ作成
手作業では見落としがちなサーバーやアプリケーションを自動的に検出し、包括的なインベントリを作成します。
依存関係マッピング
アプリケーション間の通信パターンを分析し、複雑な依存関係を可視化します。これにより、移行時にどのシステムを一緒に移行すべきかが明確になります。
リソース使用率分析
CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークの使用状況を継続的に監視し、AWS でのリソースサイジングに必要なデータを収集します。
2つのデータ収集方式
エージェントレス検出
VMware 環境で、仮想マシンに何もインストールすることなく基本情報を収集します。
メリット:
- 導入が簡単で影響範囲が限定的
- VMware vCenter との連携による自動検出
収集情報:
- サーバー構成情報
- VM 仕様
- ネットワーク構成
エージェントベース検出
各サーバーに軽量エージェントをインストールし、詳細な情報を収集します。
メリット:
- 詳細なプロセス情報とパフォーマンスデータ
- アプリケーション間通信の詳細分析
収集情報:
- プロセス一覧とリソース使用量
- ネットワーク接続の詳細
- システムパフォーマンスメトリクス
活用シーン
移行プロジェクトの初期段階
移行対象の全体像を把握し、プロジェクトの規模と複雑さを正確に見積もります。未知のシステムや依存関係の発見により、移行リスクを事前に特定できます。
移行グループ策定
依存関係分析の結果を基に、一緒に移行すべきアプリケーション群(移行ウェーブ)を決定します。これにより、段階的で安全な移行計画を立案できます。
コスト見積もり精度向上
実際のリソース使用量データに基づいて AWS リソースを適切にサイジングし、移行後の運用コストを正確に予測できます。
移行優先順位の決定
以下の要素を総合的に判断し、移行の優先順位を決定します:
評価項目 | 高優先度の特徴 |
---|---|
ビジネス影響度 | 事業継続に重要 |
技術的複雑さ | 依存関係が少ない |
移行コスト | ROI が高い |
リスク | 移行リスクが低い |
AWS Migration Hub との連携
収集されたデータは AWS Migration Hub に統合され、移行プロジェクト全体の管理に活用されます。
導入メリット
移行計画の精度向上
推測に基づいた計画ではなく、実際のデータに基づいた移行戦略を策定できます。これにより、計画の実現可能性と成功確率が大幅に向上します。
移行リスクの軽減
未知の依存関係や隠れたシステムを事前に発見することで、移行時のシステム障害を防止できます。
プロジェクト期間の短縮
手作業での調査が不要になり、移行プロジェクト全体の期間を短縮できます。
コスト最適化
過度なリソース確保や不足による性能問題を防ぎ、適切なコストでの移行を実現します。
セキュリティとプライバシー
Application Discovery Service は以下のセキュリティ機能を提供します:
- 収集されたデータの暗号化
- IAM による厳密なアクセス制御
- ネットワーク通信の TLS 暗号化
- データの地域内保存
料金体系
エージェントベース検出は、アクティブなエージェント数に基づく月額料金制です。エージェントレス検出には追加料金はかかりません。
まとめ
AWS Application Discovery Service は、移行プロジェクトの成功に不可欠な「現状把握」を自動化し、データドリブンな移行計画の策定を可能にします。
手作業では困難な大規模環境の分析も効率的に実行でき、移行リスクの軽減と期間短縮を同時に実現できます。特に複雑なオンプレミス環境を持つ組織にとって、移行プロジェクトの第一歩として重要な役割を果たすサービスです。
移行を成功に導くためには、まず正確な現状把握から始めることが重要です。Application Discovery Service を活用して、確実な移行戦略の基盤を構築しましょう。