AWS CodePipelineアーキテクチャ入門 - パイプラインの仕組みを理解しよう

CodePipelineを効果的に使うためには、サービスの仕組みを理解することが大切です。この記事では、CodePipelineがどのように動作し、なぜこのような構造になっているのかを、図解を使って分かりやすく説明します。

CodePipelineの基本構造を理解しよう

なぜ「ステージ」と「アクション」に分かれているのか

CodePipelineでは、ソフトウェアのリリース工程を「ステージ」という大きなまとまりに区切り、その中で具体的な作業を「アクション」として定義します。この構造には、以下のようなメリットがあります。

パイプラインの4つの主要要素

CodePipelineは、以下の4つの要素で構成されています。

1. パイプライン(全体の流れ)

パイプラインは、ソフトウェアリリースの全体の流れを表す「設計図」のようなものです。一度作成すると、この設計図に沿って自動的に作業が進んでいきます。

2. ステージ(工程のまとまり)

ステージは、「ソース取得」「ビルド」「テスト」などの論理的な作業工程を表します。前のステージが成功した場合のみ、次のステージに進みます。

3. アクション(具体的な作業)

アクションは、ステージ内で実行される具体的な作業です。「GitHubからコードをダウンロード」「ユニットテストを実行」など、最も小さな作業単位です。

4. アーティファクト(データの受け渡し)

アーティファクトは、ステージ間でファイルやデータを受け渡すための仕組みです。自動的にS3に保存され、次のステージで必要に応じて取り出されます。

パイプラインが実行される流れ

CodePipelineがどのように動作するのか、実際の流れを見てみましょう。

通常の実行(新しいコードのデプロイ)

この一連の流れが、開発者がコードをpushするだけで自動的に実行されます。

ロールバック実行(問題発生時の復旧)

ロールバックでは、新しいビルドを行わずに、過去の成功したバージョンを再デプロイすることで、数分で復旧できます。

アーティファクトフローの詳細メカニズム

アーティファクトの生成と管理

アーティファクトの実体と構造

要素詳細内容保存場所
ソースアーティファクトソースコード、設定ファイル、dependenciess3://bucket/pipeline-name/source/execution-id/
ビルドアーティファクトコンパイル済みバイナリ、静的ファイル、テストレポートs3://bucket/pipeline-name/build/execution-id/
デプロイアーティファクトデプロイ用パッケージ、設定テンプレートs3://bucket/pipeline-name/deploy/execution-id/

実行フローの内部メカニズム

トリガーイベントの処理

並列・直列実行の制御

同一ステージ内での並列実行:

yaml
# 並列実行の例
Stage:
  Name: TestStage
  Actions:
    - Name: UnitTest      # 並列実行
      ActionTypeId:
        Category: Test
      RunOrder: 1
    - Name: IntegrationTest  # 並列実行
      ActionTypeId:
        Category: Test
      RunOrder: 1
    - Name: SecurityScan  # 上記2つ完了後に実行
      ActionTypeId:
        Category: Test
      RunOrder: 2

RunOrderによる実行制御:

  • RunOrder: 1 のアクションは並列実行
  • RunOrder: 2 のアクションは RunOrder: 1 完了後に実行
  • 同じRunOrder内では失敗時に全体停止

パイプライン設計パターン

基本的な設計パターン

1. シンプルリニアパターン

適用場面:

  • 小規模アプリケーション
  • 単一環境デプロイ
  • シンプルなワークフロー

2. 分岐並列パターン

適用場面:

  • 複数テストの並列実行が必要
  • テスト時間の短縮が重要
  • 多段階デプロイメント

3. マルチブランチパターン

適用場面:

  • 複数の開発ブランチを管理
  • フィーチャーブランチでの独立テスト
  • メインブランチでの本格デプロイ

エンタープライズ設計パターン

マルチリージョンデプロイパターン

アーティファクト管理の最適化

アーティファクトライフサイクル管理

CodePipelineのアーティファクトは以下のライフサイクルで管理されます。

保存期間とストレージクラス設定

yaml
# S3バケットライフサイクル設定例
LifecycleConfiguration:
  Rules:
    - Id: CodePipelineArtifacts
      Status: Enabled
      Filter:
        Prefix: codepipeline-artifacts/
      Transitions:
        - Days: 30
          StorageClass: STANDARD_IA
        - Days: 90
          StorageClass: GLACIER
      Expiration:
        Days: 365

アーティファクト暗号化戦略

暗号化方式適用場面設定方法
S3マネージド暗号化一般的なワークロードデフォルトバケット暗号化
KMS暗号化企業セキュリティ要件パイプライン作成時に指定
カスタマーマネージドキー厳格なコンプライアンス独自KMSキーの作成・管理

パフォーマンス最適化パターン

大容量アーティファクトの処理

最適化技術:

  • 差分ビルド: 変更ファイルのみをビルド対象とする
  • アーティファクト分割: 大きなアーティファクトを論理的に分割
  • キャッシュ活用: CodeBuildのビルドキャッシュでビルド時間短縮

実行制御の詳細メカニズム

条件付き実行の実装

CodePipelineでは変数と条件を使用して、動的な実行制御が可能です。

変数の定義と使用

yaml
# 変数定義の例
Variables:
  - Name: ENVIRONMENT
    DefaultValue: staging
  - Name: DEPLOY_REGION  
    DefaultValue: us-east-1

条件による実行制御

yaml
# 条件設定の例
Stage:
  Name: ProductionDeploy
  OnFailure:
    ActionTypeId:
      Category: Invoke
      Owner: AWS
      Provider: Lambda
      Version: 1
    Configuration:
      FunctionName: rollback-function
  Conditions:
    - Result: SUCCESS
      Rules:
        - InputArtifacts: BuildOutput
          RuleTypeId:
            Category: Rule
            Owner: AWS
            Provider: CodeCommitSourceAction
            Version: 1
          Configuration:
            Branch: main

実行状態の管理

パイプライン実行ステータス

ステータス意味対処法
InProgress実行中正常な進行状況を監視
Succeeded成功完了結果確認・次回実行準備
Failed失敗エラー原因調査・修正
Cancelled実行中止中止理由確認・再実行検討
Superseded新実行により上書き最新実行状況を確認

ステージレベルの状態制御

設計時の考慮事項

スケーラビリティ設計

同時実行数の管理

  • デフォルト制限: リージョンあたり同時実行数は制限あり
  • 実行キュー: 制限超過時は自動的にキューイング
  • リソース競合: 同一ターゲットへの同時デプロイ回避

大規模組織での設計パターン

耐障害性の設計

失敗時のフォールバック戦略

  1. アクションレベル: リトライ設定とタイムアウト制御
  2. ステージレベル: 失敗時の条件分岐と代替処理
  3. パイプラインレベル: 自動ロールバックの仕組み

依存関係の管理

  • 外部サービス依存: サードパーティサービスの障害を考慮
  • リソース依存: AWSサービスの制限や可用性を考慮
  • 時間依存: 営業時間外デプロイなどの制約を考慮

まとめ

CodePipelineのアーキテクチャ理解により、以下の設計が可能になります:

効率的な設計のポイント

  • 適切な粒度: ステージとアクションの論理的な分離
  • 最適化されたアーティファクト: 必要最小限のデータ転送
  • 条件付き実行: 無駄な処理の排除と動的制御
  • 耐障害性: 失敗時の適切なハンドリング

次の記事では、各ステージのアクション詳細設定について解説します。