AWS Cost Explorer コスト分析手法 - 効果的な支出分析のテクニック

Cost Explorerを使ったコスト分析は、具体的な削減アクションにつなげることが最も重要です。このページでは、実際にコスト削減を実現できる分析手法と、それらを活用した具体的な最適化アクションを体系的に解説します。

分析の基本アプローチ

コスト削減のための分析フレームワーク

コスト削減を成功させるためには、削減機会発見に特化した分析アプローチが必要です。以下のフレームワークは、実際に多くの組織が10-30%のコスト削減を達成している手法です。

分析の段階

第1段階: 無駄リソースの特定

目的: 即座に削減可能な無駄コストを発見する

主要な確認項目:

  • 使用率0%のインスタンスやデータベース
  • アタッチされていないEBSボリューム
  • 使用されていないElastic IP、ロードバランサー

実践手順:

  1. EC2サービスで「Usage Type」でフィルタし、Runningインスタンスを特定
  2. CloudWatchでCPU使用率5%未満のインスタンスを抽出
  3. EBSボリュームコストで「Volume Type」別に未使用を特定

第2段階: サイジング最適化の検証

目的: 過剰プロビジョニングされたリソースを特定し、適正サイズに変更

サイジング最適化対象:

  • EC2インスタンス: CPU使用率30%未満のインスタンス
  • RDSインスタンス: 接続数が低いデータベース
  • EBSボリューム: 使用量が低いストレージ
  • メモリ最適化インスタンス: メモリ使用率が低いインスタンス
  • コンピュート最適化インスタンス: CPU集約でないワークロード

第3段階: 購入オプション最適化

目的: 予約インスタンスやSavings Plansで大幅なコスト削減を実現

最適化観点:

  • 安定稼働インスタンスに対する予約適用(20-70%削減)
  • スポットインスタンス適用可能ワークロード(50-90%削減)
  • S3ストレージクラス最適化(40-80%削減)

EC2コスト最適化の実践

具体的な削減手法と実践テクニック

実際のUI操作を通じて、具体的なコスト削減を実現する手法を解説します。

無駄リソース特定の実践手法

実践手順:

  1. 未使用EC2インスタンス特定: Cost ExplorerでEC2サービスを選択、「Usage Type」でフィルタ
  2. EBSボリュームチェック: 「Amazon Elastic Block Store」で「Volume Type」別にコスト確認
  3. ロードバランサー点検: 「Elastic Load Balancing」でターゲットのないALB/NLBを特定

無駄リソース特定の効果:

削減事例:

  • 未使用EC2インスタンス 50台停止 → 月額$15,000削減達成
  • アタッチされていないEBS 100TB削除 → 月額$10,000削減達成

サイジング最適化の実践

EC2インスタンスサイジング最適化:

  1. CPU使用率分析: CloudWatchでCPU使用率30%未満のインスタンス特定
  2. メモリ使用率確認: CloudWatch Agentでメモリ使用率が50%未満のインスタンス特定
  3. ネットワーク使用率: 帯域使用率が低いインスタンスのサイズダウン

サイジング最適化の効果:

  • m5.large → m5.medium: 月額50%コスト削減
  • t3.xlarge → t3.large: 月額50%コスト削減
  • c5.2xlarge → c5.xlarge: 月額50%コスト削減

購入オプション最適化の実践

予約インスタンス適用戦略:

  1. 安定ワークロード特定: 24時間365日稼働のインスタンスをRI対象として特定
  2. Savings Plans適用: 予測可能なコンピュート使用量にSavings Plansを適用
  3. スポットインスタンス活用: バッチ処理や開発環境でスポット適用

購入オプション最適化の効果:

  • 1年RI適用: 30-40%コスト削減
  • 3年RI適用: 50-60%コスト削減
  • スポットインスタンス: 70-90%コスト削減

サービス別分析

AWS利用の大部分を占める主要サービスについて、それぞれ特有の分析観点があります。

EC2分析

分析の重点項目:

インスタンスタイプ別分析:

  • 使用率に対するインスタンスサイズの適正性
  • CPU、メモリ使用率とコストのバランス
  • 世代の古いインスタンスタイプの使用状況

購入オプション別分析:

  • オンデマンド vs リザーブドインスタンス の比率
  • スポットインスタンス活用機会
  • Savings Plans適用状況

分析手順例:

  1. Cost Explorerで「Service」を「Amazon Elastic Compute Cloud - Compute」に設定
  2. 「Group by」で「Instance Type」を選択
  3. コスト上位のインスタンスタイプを確認
  4. CloudWatchメトリクスと照合して使用率を確認

S3分析

ストレージクラス最適化:

  • Standard vs IA vs Glacier の使用状況
  • アクセスパターンに基づく適切なクラス選択
  • ライフサイクルポリシーの効果測定

データ転送コスト分析:

  • リージョン間転送の最適化機会
  • CloudFrontとの組み合わせ効果
  • 不要なデータ転送の特定

RDS分析

インスタンス効率性:

  • データベースサイズとインスタンス仕様の適合性
  • Multi-AZ設定の必要性評価
  • リードレプリカの使用効率

バックアップ・スナップショット最適化:

  • 自動バックアップ保持期間の適正性
  • 手動スナップショットの整理機会
  • ポイントインタイムリカバリ設定の見直し

リージョン別分析

地理的コスト分散の評価

分析観点:

  • 各リージョンでの主要サービス使用状況
  • リージョン間でのコスト差異
  • レイテンシーとコストのトレードオフ

最適化機会の発見:

  • 低コストリージョンへの移行可能性
  • 災害復旧サイトのコスト効率性
  • 開発・テスト環境のリージョン最適化

データ転送コスト最適化

タグベース分析

タグを活用したコスト配分は、組織的なコスト管理の基盤となります。

効果的なタグ戦略

コスト配分タグの設計:

  • Project: プロジェクト単位でのコスト管理
  • Environment: 開発、ステージング、本番環境の分離
  • Team: チーム・部署単位での責任分担
  • CostCenter: 会計上のコストセンター配分

分析の実践例:

プロジェクト別収益性分析:

  1. 「Group by」で「Tag」を選択し、Projectタグを指定
  2. 各プロジェクトのコスト推移を確認
  3. プロジェクトの売上・予算と照合して収益性を評価

環境別コスト効率分析:

  • 本番環境に対する開発・テスト環境のコスト比率
  • 環境間でのリソース使用効率の比較
  • 開発環境の夜間・休日停止による削減効果

高度な分析テクニック

異常検知分析

統計的異常検知

移動平均との比較:

  • 過去30日の移動平均からの乖離度を計算
  • 標準偏差を用いた異常値の統計的判定
  • 季節性を考慮した異常パターンの検出

実装例 (概念的アプローチ):

今日のコスト = $1,200
過去30日平均 = $800
標準偏差 = $150

Z-score = (1200 - 800) / 150 = 2.67
→ 統計的に有意な異常値と判定

ビジネス文脈での異常検知

予期されるコスト変動:

  • 新機能リリースに伴うトラフィック増加
  • 季節要因(年末商戦、新年度開始など)
  • 計画的なインフラ増強

予期しないコスト変動:

  • システム障害による緊急対応
  • 設定ミスによる過剰リソース起動
  • セキュリティインシデント対応

コスト効率性分析

単位当たりコスト分析

ビジネスメトリクスとの関連付け:

  • ユーザー当たりのインフラコスト
  • トランザクション当たりのコスト
  • データ処理量当たりのコスト

計算例:

月間総コスト: $10,000
月間アクティブユーザー: 50,000人
ユーザー当たりコスト: $0.20

競合他社・ベンチマークとの比較

業界平均との比較観点:

  • 売上に占めるIT(クラウド)コストの割合
  • 従業員一人当たりのクラウドコスト
  • 同規模企業との効率性比較

予測分析

トレンドベース予測

Cost Explorerの予測機能を補完する分析手法:

線形トレンド分析:

  • 過去6〜12ヶ月のデータから線形回帰
  • 季節性要因の調整
  • 信頼区間の設定

成長率ベース予測:

月次成長率 = (今月コスト / 前月コスト) - 1
年間成長率推定 = (1 + 月次成長率)^12 - 1

シナリオ分析

複数シナリオでの予測:

  • 保守的シナリオ: 現在の成長率が継続
  • 楽観的シナリオ: 最適化により成長率が低下
  • 悲観的シナリオ: 予期しない要因で成長率が上昇

分析結果の活用

最適化優先度の設定

発見された最適化機会を効率的に実行するための優先度設定手法:

インパクト・工数マトリックス

ROI計算

費用対効果の定量化:

ROI = (年間削減コスト - 実装コスト) / 実装コスト × 100%

例:
- 年間削減見込み: $12,000
- 実装工数: 40時間 × $100/時間 = $4,000
- ROI = ($12,000 - $4,000) / $4,000 × 100% = 200%

レポーティング

ステークホルダー別レポート設計

経営層向け:

  • 高レベルのコスト推移
  • 予算対実績
  • 主要な最適化成果

技術責任者向け:

  • サービス別詳細分析
  • 技術的最適化機会
  • パフォーマンスとコストのバランス

プロジェクトマネージャー向け:

  • プロジェクト別コスト配分
  • 予算執行状況
  • リソース使用効率

まとめ

効果的なコスト分析は、体系的なアプローチと継続的な実践により実現されます。Cost Explorerの豊富な機能を活用し、組織の状況に応じた分析手法を選択することが重要です。

分析成功のポイント

  1. 段階的アプローチ: 全体像把握→詳細分析→最適化実行の流れ
  2. 継続的実施: 定期的な分析により変化を早期発見
  3. ビジネス文脈の考慮: 技術的指標とビジネス指標の両面から評価
  4. 組織的取り組み: 関係者間での情報共有と責任分担

次のステップ

分析手法を習得した後は、効果的な可視化とレポート作成により、分析結果を組織全体で活用していきましょう。