AWS Security Hub入門 - 統合セキュリティダッシュボードの基本

複数のセキュリティツールを運用する現代の企業では、情報の分散と重複が深刻な課題となっています。AWS Security Hubは、AWS環境全体のセキュリティ態勢を一元的に管理し、複数のセキュリティサービスからの検出結果を統合するセキュリティ情報・イベント管理(SIEM)サービスです。セキュリティ運用の効率化と可視性向上の第一歩を理解しましょう。

AWS Security Hubとは

AWS Security Hubは、AWS環境におけるセキュリティ検出結果とコンプライアンス状況を一元的に集約し、標準化された形式で表示するマネージドサービスです。GuardDuty、Inspector、Configなどの複数のAWSセキュリティサービスに加えて、第三者のセキュリティツールからの結果も統合できます。

このサービスの中核となるのは、AWS Security Finding Format(ASFF)という標準化されたデータ形式です。異なるソースからの検出結果をすべてASFFに変換することで、一貫した形式での表示と分析が可能になります。

Security Hubは、単純な情報の集約だけでなく、検出結果の重要度評価、重複排除、関連性分析なども実行します。機械学習アルゴリズムを使用して、似たような検出結果をグループ化し、根本的な問題を特定します。

セキュリティ運用の課題

情報分散の問題

現代の企業環境では、複数のセキュリティツールを使用することが一般的です。しかし、各ツールが個別にアラートを生成するため、セキュリティチームは情報の分散と重複に悩まされます。

主要な課題

  • 同じインシデントに対する複数の重複アラート
  • 各ツールのダッシュボードを個別に監視する必要性
  • 手動での情報統合による時間の浪費
  • 重要な情報を見逃すリスクの増大

優先順位付けの困難さ

異なるツールが異なる基準で重要度を評価するため、どのアラートを優先して対応すべきかの判断が困難です。ビジネスへの影響度や組織のリスク許容度を考慮した統一的な優先順位付けが必要です。

判断を困難にする要因

  • 各ツール固有のスコアリングシステム
  • コンテキスト情報の不足
  • ビジネス影響度の評価基準の不統一
  • 時間経過による重要度の変化

コンプライアンス管理の複雑性

複数の規制要件(PCI DSS、HIPAA、SOX法など)に対応する組織では、各要件に対する準拠状況を継続的に監視し、証跡を管理することが困難です。

Security Hubの統合アプローチ

標準化されたデータ形式(ASFF)

AWS Security Finding Format(ASFF)は、異なるセキュリティツールからの検出結果を統一形式で表現するJSONベースの標準です。この標準化により、ソースに関係なく一貫した分析と処理が可能になります。

ASFFの主要要素

  • 検出結果の基本情報(タイトル、説明、重要度)
  • リソース情報(影響を受けるAWSリソース)
  • 修復情報(推奨される対応手順)
  • コンプライアンス情報(関連する規制要件)

自動的な重複排除と関連付け

Security Hubは、機械学習アルゴリズムを使用して類似の検出結果を自動的に識別し、重複を排除します。また、関連する検出結果をグループ化して、包括的なセキュリティインシデントの全体像を提供します。

処理される重複パターン

  • 同一リソースに対する類似の検出結果
  • 関連するセキュリティイベントの時系列パターン
  • 攻撃キルチェーンでの関連性
  • 地理的・時間的な相関関係

主要機能とサービス統合

AWSネイティブサービスとの統合

Security Hubは、主要なAWSセキュリティサービスとネイティブに統合されており、設定作業を最小限に抑えて包括的なセキュリティ監視を実現できます。

統合対象サービス

  • GuardDuty: 脅威検出結果の統合
  • Inspector: 脆弱性評価結果の統合
  • Config: コンプライアンス違反の統合
  • IAM Access Analyzer: アクセス分析結果の統合
  • Macie: データプライバシー検出結果の統合

第三者ツールとの統合

AWS Partner Network(APN)パートナーのセキュリティツールとも統合可能で、既存のセキュリティ投資を活用しながらSecurity Hubの利点を享受できます。

主要な統合パートナー

  • Splunk、CrowdStrike、Palo Alto Networks
  • Trend Micro、Fortinet、Check Point
  • Rapid7、Qualys、Tenable

インサイト機能

Security Hubのインサイト機能は、収集されたデータから有用なセキュリティ情報を抽出し、カスタムダッシュボードとして表示します。

標準インサイト例

  • 重要度の高い検出結果の傾向
  • 特定のリソースタイプへの攻撃パターン
  • コンプライアンス違反の傾向分析
  • 地理的な脅威分布

コンプライアンス管理

自動コンプライアンスチェック

Security Hubは、多数のコンプライアンス基準に対する自動チェック機能を提供します。リソースの設定変更に応じてリアルタイムで評価が実行され、違反状況を即座に把握できます。

サポートされる主要基準

  • AWS Foundational Security Standard: AWS推奨のセキュリティベストプラクティス
  • CIS AWS Foundations Benchmark: Center for Internet Securityの基準
  • PCI DSS: クレジットカード業界のデータセキュリティ基準
  • NIST Cybersecurity Framework: 米国標準技術研究所のフレームワーク

継続的な監視と報告

コンプライアンス状況は継続的に監視され、変化に応じて自動的に更新されます。定期的なレポート生成により、監査対応や経営層への報告が効率化されます。

セキュリティエコシステムでの位置づけ

Security Hubは、AWSセキュリティサービス群の中で「統合管理」の中核的役割を担います。他のサービスが提供する個別の機能を統合し、包括的なセキュリティ運用を実現します。

他サービスとの関係性

  • GuardDuty/Inspector: 個別の検出結果を提供
  • Security Hub: 結果を統合し、一元管理
  • EventBridge: 統合結果に基づく自動対応
  • Systems Manager: 検出された問題の自動修復

導入の利点

運用効率の向上

複数のダッシュボードを個別に監視する必要がなくなり、セキュリティアナリストの作業効率が大幅に向上します。標準化された形式により、分析と対応の一貫性も保たれます。

可視性の向上

組織全体のセキュリティ態勢を一元的に把握できるため、経営層への報告や戦略的意思決定が効率化されます。リアルタイムの状況把握により、迅速な対応が可能になります。

コスト最適化

既存のセキュリティツール投資を活用しながら、運用効率を向上させることで、全体的なセキュリティ運用コストを削減できます。

次のステップ

Security Hubの基本概念を理解したら、次は具体的なコンプライアンス管理機能について詳しく学習しましょう。次の記事では、各種コンプライアンス基準の設定と運用方法を解説します。