AWS Direct Connect アーキテクチャ設計ガイド - 物理・論理構成の詳細解説
AWS Direct Connectの効果的な活用には、その詳細なアーキテクチャの理解が不可欠です。本記事では、物理的な接続構成から論理的なネットワーク設計まで、Direct Connectアーキテクチャの全体像を詳しく解説します。
Direct Connectアーキテクチャの全体像
物理層のアーキテクチャ
AWS Direct Connectの物理的なアーキテクチャは、複数の地理的に分散したコンポーネントで構成されています。
顧客データセンター 企業のオンプレミス環境で、ここからAWSクラウドへの接続が開始されます。顧客が管理するルーターやファイアウォールなどのネットワーク機器が配置されています。
Direct Connectロケーション AWSと提携するデータセンター施設で、世界各地に配置されています。ここで物理的なクロスコネクトが行われ、顧客の機器とAWSネットワークが接続されます。
AWSバックボーンネットワーク AWSが管理する高速ネットワークインフラストラクチャで、Direct ConnectロケーションからAWSリージョンまでの通信を担います。
論理層のアーキテクチャ
物理的な接続の上に、論理的なネットワーク構成が実装されます。
仮想インターフェース(VIF) VLAN技術を使用して、単一の物理接続上で複数の論理的な接続を実現します。各VIFは独立したネットワークセグメントとして動作します。
BGPセッション 各VIFでBorder Gateway Protocolセッションが確立され、自動的なルーティング制御が行われます。これにより、動的な経路制御と冗長性を実現します。
ルーティングテーブル 顧客側とAWS側の両方でルーティングテーブルが管理され、トラフィックの適切な転送が制御されます。
仮想インターフェース(VIF)の詳細設計
プライベートVIF
プライベートVIFは、オンプレミス環境と特定のVPCを直接接続するために使用されます。
設定要素
- VLAN ID: トラフィック分離のための一意識別子
- BGP ASN: 顧客側の自律システム番号
- IPアドレス: /30または/31サブネットでの点対点接続
- BGP認証: MD5ハッシュによるセキュリティ
ルーティング制御 プライベートVIFでは、顧客からVPCへの経路をBGPで動的に管理します。以下のような経路情報が交換されます。
- 顧客側:オンプレミスネットワークの経路をAWSにアドバタイズ
- AWS側:VPCのCIDRブロックを顧客にアドバタイズ
パブリックVIF
パブリックVIFは、AWSのパブリックサービスに専用接続経由でアクセスするために使用されます。
特徴と構成
- パブリックIPアドレス空間を使用
- AWSパブリックサービスの経路をBGPで受信
- インターネットゲートウェイを経由しない直接アクセス
対象サービス
- Amazon S3: オブジェクトストレージ
- Amazon DynamoDB: NoSQLデータベース
- Amazon CloudFront: コンテンツ配信ネットワーク
- AWS API Gateway: APIサービス
トランジットVIF
トランジットVIFは、Direct Connect Gatewayと組み合わせて使用し、複数のVPCや複数リージョンへの接続を実現します。
アーキテクチャ設計 トランジットVIFは、従来の1対1接続を超えて、1対多の接続モデルを可能にします。
BGPルーティング設計
BGPの基本設定
AWS Direct ConnectでのBGPルーティングは、自動的な経路制御と冗長性を提供します。
必須設定項目
- 顧客BGP ASN: 通常は65000-65534のプライベートASN
- AWSBGP ASN: 通常は64512
- BGP認証: MD5ハッシュによるセッション認証
- ルーティングポリシー: 経路の制御と優先度設定
BGPセッションの確立プロセス
- 物理接続とVLANの確立
- IPアドレスの設定
- BGPピアリングの設定
- 認証の確認
- ルート交換の開始
高可用性BGP設計
プライマリ・セカンダリ構成 冗長性を確保するため、複数のDirect Connect接続を設定し、BGP属性を使用して経路の優先度を制御します。
BGP設計例:
プライマリ接続:
Local Preference: 200
AS Path Prepend: なし
MED: 100
セカンダリ接続:
Local Preference: 100
AS Path Prepend: 3回
MED: 200
負荷分散設計 Equal Cost Multi-Path(ECMP)を使用して、複数の接続間でトラフィックを分散できます。
ルートフィルタリング
適切なセキュリティを確保するため、BGPルートフィルタリングを実装します。
アウトバウンドフィルタリング
- 必要な経路のみをAWSにアドバタイズ
- プライベートネットワーク経路の制限
- デフォルトルートの制御
インバウンドフィルタリング
- AWSからの経路を適切に制限
- 不要な経路の拒否
- セキュリティポリシーに基づく制御
Direct Connect Gatewayアーキテクチャ
中央集約型設計
Direct Connect Gatewayは、ハブ・アンド・スポーク型のネットワークアーキテクチャを実現します。
設計メリット
- 単一の物理接続で複数VPCにアクセス
- 新しいVPC追加時の接続簡素化
- 運用管理コストの削減
- スケーラビリティの向上
制限事項
- VPC間の直接通信は不可
- 最大20のVPC接続
- 同一リージョン内VPC間の経路交換制限
マルチリージョン設計
Link Aggregation Group(LAG)設計
LAGの基本概念
LAGは、複数の物理接続を論理的に束ねて、帯域幅の増加と冗長性を実現する技術です。
LAGの利点
- 帯域幅の拡張: 最大4つの接続を束ねて帯域幅増加
- 自動フェイルオーバー: 接続障害時の自動切り替え
- 負荷分散: トラフィックの効率的な分散
- 運用の簡素化: 単一論理インターフェースとしての管理
LAG設計の考慮事項
同一性要件
- 同一のDirect Connectロケーション
- 同一の接続速度
- 同一の終端設備
冗長性設計 LAGメンバーが同時に障害を起こすリスクを軽減するため、可能な限り異なる物理パスを使用します。
セキュリティアーキテクチャ
ネットワークセグメンテーション
VLAN分離 異なるワークロード間でのトラフィック分離を実現します。
- 本番環境VIF: VLAN 100
- 開発環境VIF: VLAN 200
- 管理用VIF: VLAN 300
BGPコミュニティによる制御 BGPコミュニティ属性を使用して、詳細なルーティング制御を実装します。
暗号化設計
MACsec実装 10Gbps以上の接続では、IEEE 802.1AE MACsec暗号化を利用できます。
アプリケーション層暗号化 TLS/SSLによるエンドツーエンド暗号化との組み合わせで、多層防御を実現します。
監視とトラブルシューティング
監視アーキテクチャ
CloudWatchメトリクス
- ConnectionState: 接続状態の監視
- ConnectionBpsEgress/Ingress: 帯域幅使用率
- ConnectionPpsEgress/Ingress: パケット転送率
- ConnectionLightLevelTx/Rx: 光信号レベル
BGPセッション監視
- BGP状態の継続監視
- ルート数の変化検知
- フラッピング検出
パフォーマンス最適化
帯域幅監視 実際の使用パターンを分析し、適切な接続速度を維持します。
レイテンシー最適化 トラフィックパターンとルーティング設計を最適化し、最短パスでの通信を実現します。
AWS Direct Connectのアーキテクチャは、物理層から論理層まで多層にわたる設計が必要です。適切なアーキテクチャ設計により、高性能・高可用性・高セキュリティなハイブリッドクラウド環境を構築できます。
次回の記事では、実際の実装手順と設定方法について詳しく解説します。