AWS CloudFront 概要 - CDNとグローバル配信の基本
AWS CloudFrontは、Webサイトやアプリケーションのコンテンツを世界中のユーザーに高速で配信するCDN(Content Delivery Network)サービスです。従来、東京にあるサーバーからニューヨークのユーザーにコンテンツを配信する場合、物理的な距離による遅延が発生していました。CloudFrontは、この課題をエッジロケーションと呼ばれる世界各地の配信拠点を活用して解決します。
この記事では、CDNの基本概念から実際の設計パターンまで、初心者にも分かりやすく解説します。
CDNとは
従来の課題とCDNの解決方法
従来の問題
- サーバーから遠い地域のユーザーは読み込みが遅い
- サーバーに負荷が集中してパフォーマンスが低下
- 大量のアクセス時にサービスが不安定になる
CDNによる解決
- 世界各地のサーバー(エッジ)にコンテンツを配置
- ユーザーに最も近いサーバーからコンテンツを配信
- 元のサーバー(オリジン)への負荷を分散
CloudFrontの仕組み
配信フロー
- ユーザーがWebサイトにアクセス
- CloudFrontが最寄りのエッジロケーションを選択
- エッジにコンテンツがある場合、即座に配信(キャッシュヒット)
- エッジにない場合、オリジンサーバーから取得して配信(キャッシュミス)
CloudFrontの主要機能
エッジロケーション
CloudFrontは世界450以上のエッジロケーションを運営しています。
主要エッジロケーション
- アジア太平洋: 東京、大阪、ソウル、シンガポール等
- アメリカ: バージニア、オレゴン、カリフォルニア等
- ヨーロッパ: フランクフルト、ロンドン、パリ等
キャッシュ機能
頻繁にアクセスされるコンテンツを各エッジに保存し、高速配信を実現します。
キャッシュ対象コンテンツ
- 画像ファイル(JPEG、PNG、SVG等)
- スタイルシート(CSS)
- JavaScript
- 動画・音声ファイル
- HTMLページ(設定による)
セキュリティ機能
DDoS攻撃保護 AWS Shieldと統合し、大規模な攻撃から自動的に保護します。
地理的制限 特定の国や地域からのアクセスを制限できます。
# 地理的制限の設定例(AWSコンソールまたはCLI)
# 日本からのアクセスのみ許可する場合
aws cloudfront update-distribution --id [distribution-id] --distribution-config file://config.json
オリジンの種類と選択
Amazon S3
適用場面
- 静的サイトホスティング
- 画像・動画ファイルの配信
- ソフトウェアのダウンロード配信
メリット
- 設定が簡単
- 高い可用性
- 容量無制限
EC2・ALB
適用場面
- 動的コンテンツの配信
- APIエンドポイント
- Webアプリケーション
特徴
- リアルタイムなコンテンツ生成
- データベース連携
- セッション管理
カスタムオリジン
適用場面
- オンプレミスサーバー
- 他のクラウドサービス
- 既存のWebサーバー
配信設定とビヘイビア
キャッシュポリシー
コンテンツタイプごとに適切なキャッシュ期間を設定します。
コンテンツタイプ | 推奨キャッシュ期間 | 理由 |
---|---|---|
画像ファイル | 1年 | 変更頻度が低い |
CSS/JavaScript | 1ヶ月 | 更新時はファイル名変更 |
HTMLページ | 1時間~1日 | 更新頻度に応じて |
APIレスポンス | 5分~1時間 | データの鮮度要件による |
パスパターン
URLのパスに応じて異なる配信設定を適用できます。
設定例
/images/*
→ 長期キャッシュ/api/*
→ 短期キャッシュ/admin/*
→ キャッシュなし
パフォーマンス最適化
圧縮設定
ファイルサイズを削減してダウンロード時間を短縮します。
対象ファイル
- HTML、CSS、JavaScript
- JSON、XML
- 画像ファイル(一部)
効果
- ファイルサイズ70~90%削減
- 読み込み時間の大幅短縮
HTTP/2対応
最新の通信プロトコルによる高速化。
メリット
- 複数ファイルの並列転送
- ヘッダー圧縮
- サーバープッシュ
監視と分析
CloudWatchメトリクス
主要指標
- リクエスト数
- データ転送量
- エラー率
- キャッシュヒット率
リアルタイム監視
監視項目
- 現在のアクセス数
- 地域別アクセス状況
- 人気コンテンツランキング
実装パターン
静的サイト配信
構成
- S3(静的ファイル保存)
- CloudFront(グローバル配信)
- Route 53(DNS)
利点
- 高速な読み込み
- 高い可用性
- 低コスト
動的サイト配信
構成
- EC2/ALB(アプリケーション)
- CloudFront(静的リソース配信)
- RDS(データベース)
最適化ポイント
- 静的リソースのみCDN経由
- 動的コンテンツは直接配信
グローバルアプリケーション
構成
- 複数リージョンでのデプロイ
- CloudFrontでの地域別ルーティング
- データベースの地域別配置
コスト最適化
料金体系
主要コスト要素
- データ転送量(地域別料金)
- HTTPリクエスト数
- 追加機能使用料
最適化手法
Price Class設定
- 全世界配信(高コスト・高性能)
- 主要地域のみ(中コスト・中性能)
- アメリカ・ヨーロッパのみ(低コスト)
キャッシュ効率改善
- 適切なキャッシュ期間設定
- 不要なクエリパラメータ除去
- 効率的なファイル構成
よくある問題と対処法
キャッシュが更新されない
原因と対処
- キャッシュ期間が長すぎる → 適切な期間に調整
- バージョニングなし → ファイル名やパラメータでバージョン管理
特定の地域で遅い
対処法
- Price Classの見直し
- オリジンサーバーの地域変更
- 追加のエッジロケーション利用
コストが予想より高い
対処法
- 不要なデータ転送の削減
- Price Classの最適化
- キャッシュヒット率の改善
まとめ
AWS CloudFrontは、Webサイトやアプリケーションのグローバル配信を実現する強力なCDNサービスです。適切な設計により、ユーザーエクスペリエンスの向上とコスト最適化を両立できます。
導入効果
- パフォーマンス向上: 世界中で高速なコンテンツ配信
- 可用性向上: 分散アーキテクチャによる安定性
- コスト削減: オリジンサーバーの負荷軽減
- セキュリティ強化: 統合された保護機能
導入検討のポイント
- 対象コンテンツの特定: 静的・動的コンテンツの分析
- ユーザー分布の把握: アクセス元地域の調査
- パフォーマンス要件: 求められる応答時間の定義
- コスト予算: 配信量と料金の試算
これらの要素を総合的に検討することで、効果的なグローバル配信環境を構築できます。