AWS移行戦略 総合ガイド
クラウド移行は単なる技術プロジェクトではなく、ビジネス変革の重要な要素です。AWS では体系的な移行戦略により、リスクを最小化しながら確実に移行を成功に導く包括的なアプローチを提供しています。本ガイドでは、AWS移行サービス群を統合した効果的な移行戦略を解説します。
AWS移行戦略「6Rs」
AWS の移行戦略は「6Rs」と呼ばれる6つのアプローチで構成されます。組織の状況とビジネス要件に応じて最適な戦略を選択できます。
Rehost(Lift and Shift)
既存システムをそのまま AWS に移行する最もシンプルなアプローチです。
特徴:
- 最短期間での移行が可能
- アプリケーションの変更が不要
- 移行リスクが最小
適用サービス:
- Application Migration Service によるサーバー移行
- Database Migration Service によるデータベース移行
Replatform
一部のコンポーネントを AWS マネージドサービスに置き換える中間的なアプローチです。
メリット:
- 運用負荷の軽減
- コスト最適化の実現
- 段階的なクラウド活用
適用例:
- データベースを Amazon RDS に移行
- ファイルサーバーを Amazon FSx に移行
Refactor(Re-architect)
クラウドネイティブなアーキテクチャに完全に作り変えるアプローチです。
実現される価値:
- 大幅な運用効率化
- スケーラビリティの獲得
- 最新技術の活用
適用技術:
- サーバーレス(AWS Lambda)
- マイクロサービス(Amazon ECS/EKS)
- マネージドデータベース(Amazon Aurora)
移行プロセスの3段階
1. Assess(現状評価)
移行の第一段階として、現状の詳細な把握と移行計画の策定を行います。
Application Discovery Service の活用
実施内容:
- エージェントベース・エージェントレス検出
- アプリケーション依存関係の可視化
- リソース使用量の分析
- 移行対象の分類と優先順位付け
移行準備作業
- ビジネス要件の整理
- 技術要件の定義
- リスク評価とリスク軽減策の策定
- 移行チーム体制の構築
2. Mobilize(移行準備)
移行計画に基づいて実行準備を整える段階です。
Migration Hub による統合管理
Migration Hub を中核とした移行プロジェクト管理基盤を構築します。
管理対象:
- 移行対象アプリケーションのグループ化
- 移行戦略(6Rs)の割り当て
- 移行スケジュールとマイルストーン
- チーム間の作業調整
技術的準備
- AWS 環境の設計と構築
- ネットワーク接続(Direct Connect、VPN)の設定
- セキュリティ基盤の整備
- 移行ツールの導入と設定
3. Migrate(移行実行)
準備された計画に基づいて実際の移行を実行する段階です。
データ層移行戦略
データベース移行
AWS Database Migration Service (DMS) を中核とした包括的なデータベース移行戦略です。
移行パターン:
- 同種移行:Oracle → RDS for Oracle
- 異種移行:Oracle → Aurora PostgreSQL
- モダナイゼーション:SQL Server → Aurora MySQL
ファイル・データ移行
データ容量と転送条件に応じて最適な転送方法を選択します。
データ量 | 推奨転送方法 | 特徴 |
---|---|---|
~10TB | AWS DataSync | ネットワーク経由、継続同期対応 |
10TB~100TB | AWS Snowball Edge | 物理デバイス、エッジコンピューティング |
100TB~ | AWS Snowmobile | 超大容量、専用チーム対応 |
サーバー移行戦略
Application Migration Service の活用
エージェントベースでの自動サーバー移行を実現します。
プロセス:
- 初期同期:ソースサーバーの完全レプリケーション
- 継続同期:変更差分の継続的な同期
- カットオーバー:本番環境への切り替え
- 最適化:AWS環境に合わせたインスタンスタイプの調整
統合プロジェクト管理
Migration Hub による可視化
移行プロジェクト全体を統合ダッシュボードで管理します。
品質管理
- 移行完了条件の明確化
- 各段階での品質チェックポイント設定
- 自動テストとレポート機能
移行成功のためのベストプラクティス
計画段階
段階的移行アプローチ
移行は一度にすべてのシステムを対象とするのではなく、リスクレベルに応じて段階的に実行することが AWS のベストプラクティスです。
段階的移行の実施要領:
- 第1段階(パイロット):リスクの低いシステムから開始し、移行プロセスを検証
- 第2段階(本格展開):パイロットで得た知見を活かし、中リスクシステムを移行
- 第3段階(基幹システム):十分な経験を積んだ後、高リスクの基幹システムを移行
この approach により、初期の小さな失敗から学び、基幹システム移行時のリスクを最小化できます。
その他の重要な計画要素:
- パイロット移行:小規模システムでの移行プロセス検証
- ロールバック計画:問題発生時の切り戻し手順の事前準備
実行段階
- 並行稼働期間:新旧システムの並行運用
- 段階的カットオーバー:ユーザーグループ別の段階的切り替え
- 継続監視:移行後の性能とコスト監視
組織・運用
- スキル移転:運用チームへの技術移転
- ドキュメント整備:運用手順書の更新
- 継続改善:移行後の最適化活動
コスト最適化戦略
移行時
- Reserved Instances の活用
- Spot Instances での開発・テスト環境構築
- ストレージクラスの適切な選択
移行後
- AWS Cost Explorer での継続的なコスト監視
- AWS Budgets でのコスト管理
- Trusted Advisor による最適化提案の活用
セキュリティ考慮事項
データ保護
- 転送中・保存時の暗号化
- Key Management Service (KMS) による暗号鍵管理
- VPC エンドポイントによるプライベート通信
アクセス制御
- IAM による細かい権限管理
- 多要素認証(MFA)の必須化
- CloudTrail によるAPI操作ログ監視
まとめ
AWS移行戦略は、Application Discovery Service による現状把握から始まり、Migration Hub による統合管理のもと、DMS、DataSync、Snow Family といった専門サービスを適材適所で活用する体系的なアプローチです。
成功の鍵は以下の要素にあります:
- データ駆動型の計画策定:Application Discovery Service による正確な現状把握
- 統合的なプロジェクト管理:Migration Hub による可視化と調整
- 適切なツール選択:移行対象に応じた最適なサービスの組み合わせ
- 段階的アプローチ:リスクを分散した計画的な移行実行
この包括的なアプローチにより、規模や複雑さに関わらず、組織のクラウド移行を成功に導くことができます。移行は終着点ではなく、クラウドの価値を継続的に実現していくための重要な出発点なのです。