AWS CodeCommitセキュリティ設定 - 企業レベルのアクセス制御と監査
AWS CodeCommitにおけるセキュリティは、企業レベルのソースコード管理において最も重要な要素の一つです。適切なアクセス制御、監査ログ、暗号化設定により、コードベースを様々な脅威から保護し、コンプライアンス要件を満たすセキュリティ基盤を構築できます。
セキュリティアーキテクチャ概要
多層防御アプローチ
CodeCommitのセキュリティは、複数の層で構成される包括的な防御戦略を採用します:
セキュリティ設計原則
CodeCommitのセキュリティ設計では、以下の5つの基本原則を重視します。
最小権限の原則では、各ユーザーやシステムに必要最小限の権限のみを付与します。開発者には開発に必要な操作権限のみを与え、管理者権限は限定された人員にのみ付与します。
職務分離では、開発、コードレビュー、本番デプロイメントの責任を明確に分離し、一人の人間がすべてのプロセスを完結できないよう設計します。
多要素認証では、パスワードだけでなく、ハードウェアトークンやモバイルアプリを組み合わせた認証を実装します。
継続的監視では、すべてのアクセスと操作をリアルタイムで監視し、異常なパターンを即座に検出します。
暗号化による保護では、データの保存時と転送時の両方で強力な暗号化を適用し、データの機密性を確保します。
IAMベースのアクセス制御
役割ベースアクセス制御の実装
企業組織に適したきめ細かな権限管理を実装するには、役割に応じたIAMポリシーの設計が重要です。
開発者役割では、通常の開発作業に必要な操作権限を付与します。具体的には、コードの取得、プッシュ、ブランチの作成と削除、コミット履歴の確認などの権限が含まれます。ただし、重要なブランチ(mainや本番ブランチ)への直接プッシュは制限します。
AWSコンソールでの設定手順:
- IAMコンソールにアクセスし「ポリシー」を選択
- 「ポリシーの作成」をクリックし、JSONタブを選択
- 基本権限の設定で、CodeCommitの読み書き権限を定義
- 条件ベース制限で、重要ブランチへのアクセスを制御
- ポリシーに分かりやすい名前をつけて保存
リード開発者役割では、より広範囲な権限を付与し、チーム管理とコードマージの責任を負います。プルリクエストの承認、ブランチマージ、リポジトリ設定の変更などが可能ですが、本番ブランチへの直接操作は依然として制限します。
セキュリティ監査者役割では、すべてのリポジトリに対する読み取り権限と、監査ログへのアクセス権限を付与します。コードの変更はできませんが、セキュリティ上の問題を発見するための包括的な閲覧権限を持ちます。
ブランチレベルのアクセス制御
特定のブランチへのアクセスを制限する設定では、ブランチの重要度に応じた段階的なアクセス制御を実装します。
メインブランチ保護では、本番環境と直結するmainブランチへの直接プッシュを完全に防止します。すべての変更はプルリクエスト経由で行い、指定された承認者による確認を必須とします。
環境別ブランチ管理では、本番、ステージング、開発の各環境に対応するブランチに異なるアクセスレベルを設定します。本番ブランチはリリース管理者のみがアクセス可能とし、開発ブランチは通常の開発者もアクセス可能とします。
AWSコンソールでのブランチ保護設定:
- CodeCommitコンソールでリポジトリを選択
- 「設定」タブから「ブランチ」を選択
- 保護対象ブランチを指定
- アクセス制限条件を設定
条件付きアクセス制御
より高度なセキュリティ要件に対応するため、アクセスの条件を設定できます。
IP制限では、特定のIPアドレス範囲からのアクセスのみを許可します。企業のオフィスネットワークや承認されたVPN接続からのアクセスに限定することで、外部からの不正アクセスを防止します。
時間制限では、営業時間内のみのアクセスを許可することで、夜間や休日の不審なアクセスを防止します。
多要素認証必須では、重要な操作に対してMFAデバイスによる追加認証を要求します。
VPCエンドポイント経由限定では、インターネット経由ではなく、企業の内部ネットワーク経由でのアクセスのみを許可します。
監査とコンプライアンス
CloudTrailによる包括的な監査ログ
すべてのCodeCommit操作を記録し、分析可能にする監査ログの設定が重要です。
CloudTrail設定では、CodeCommitの全操作を漏れなく記録します。Gitのプッシュやプルだけでなく、リポジトリの作成や削除、権限の変更なども含めて記録されます。
AWSコンソールでのCloudTrail設定手順:
- CloudTrailコンソールで新しいトレイルを作成
- データイベントでCodeCommitを選択
- S3バケットを指定してログを保存
- ログファイルの暗号化を有効化
ログの保存と分析では、収集されたログを長期保存し、定期的な分析を実施します。異常なアクセスパターンや権限昇格の試みなどを検出します。
セキュリティイベントの検出と通知
重要なセキュリティイベントを即座に検出し、関係者に通知するシステムを構築します。
監視対象イベントとして、以下のような活動を重点的に監視します:
- 不正アクセスの試行(認証失敗の連続)
- ルートアカウントの使用(通常の運用では使用されないため)
- ブランチの削除(重要なコードの喪失につながる可能性)
- 権限設定の変更(セキュリティ設定の不正な変更)
- 大量操作の実行(データ流出の可能性)
アラート設定では、CloudWatchアラームとSNS通知を組み合わせて、リアルタイムでのセキュリティ通知を実現します。
データ暗号化
保存時暗号化の設定
CodeCommitリポジトリのデータを安全に保存するため、暗号化設定を実装します。
KMS暗号化では、AWS Key Management Service(KMS)を使用してリポジトリデータを暗号化します。顧客管理キーを作成することで、暗号化キーの完全な制御が可能になります。
暗号化設定の手順:
- KMSコンソールで新しい顧客管理キーを作成
- キーポリシーでCodeCommitからのアクセスを許可
- CodeCommitリポジトリ作成時に暗号化キーを指定
- キーのローテーションを有効化
キー管理では、暗号化キーのライフサイクルを適切に管理します。定期的なキーローテーション、キーへのアクセス制御、キー使用状況の監査などが含まれます。
転送時暗号化の強制
すべての通信を暗号化し、盗聴や中間者攻撃を防止します。
HTTPS必須では、すべてのGit操作でHTTPS接続を強制します。HTTP接続による平文通信を完全に遮断します。
TLS設定では、最新のTLSバージョンを使用し、脆弱な暗号スイートを無効化します。
VPCエンドポイントによるプライベートアクセス
プライベートネットワーク経由でのアクセス設定
インターネット経由ではなく、企業の内部ネットワーク経由でCodeCommitにアクセスする設定を実装します。
VPCエンドポイント作成では、企業のVPC内にCodeCommit用のインターフェースエンドポイントを作成します。これにより、トラフィックがAWSのプライベートネットワーク内を経由し、インターネットを通過しません。
設定手順:
- VPCコンソールでエンドポイントを作成
- サービス名でCodeCommitを選択
- 対象VPCとサブネットを指定
- セキュリティグループで適切なアクセス制御を設定
DNS設定では、プライベートDNSを有効化し、既存のコードを変更することなくVPCエンドポイント経由でのアクセスを実現します。
セキュリティベストプラクティス
定期的なアクセスレビュー
セキュリティを維持するため、定期的なアクセス権限の見直しを実施します。
アクセス権限の棚卸しでは、月次または四半期ごとに、すべてのユーザーの権限を確認します。退職者の権限削除、役割変更に伴う権限調整、過大な権限の是正などを行います。
侵入検知とインシデント対応
異常パターンの検知では、以下のような不審な活動を監視します:
- 大量のダウンロードまたはクローン操作
- 通常と異なる時間帯でのアクセス
- 疑わしい名前のブランチ作成
- 短時間での大量操作
アラートシステムでは、Lambda関数やCloudWatchを活用し、異常検知時に自動でセキュリティチームに通知します。
まとめ
AWS CodeCommitのセキュリティ設定は、多層防御アプローチにより企業レベルの要求に対応します。
重要なセキュリティ要素
- IAMベースのアクセス制御: きめ細かな権限管理
- 監査とコンプライアンス: 包括的なログ記録と分析
- 暗号化: 保存時・転送時の完全な暗号化
- ネットワーク分離: VPCエンドポイントによるプライベートアクセス
- 継続的監視: リアルタイムの脅威検出とアラート
セキュリティチェックリスト
- [ ] IAMポリシーの最小権限設定
- [ ] MFA(多要素認証)の有効化
- [ ] CloudTrail監査ログの設定
- [ ] KMS暗号化の有効化
- [ ] VPCエンドポイントの設定
- [ ] セキュリティアラートの設定
- [ ] 定期的なアクセスレビュー
- [ ] インシデント対応計画の策定
適切なセキュリティ設定により、CodeCommitは企業の重要なソースコードを安全に管理する基盤となります。