Amazon RDS リードレプリカ戦略ガイド

データベースの読み取り処理が増えて、アプリケーションの動作が重くなってきた経験はありませんか。Amazon RDS リードレプリカは、そんな課題を解決する強力な機能です。

リードレプリカは、元のデータベース(プライマリ)のコピーを作成し、読み取り専用として利用できます。ユーザーからの検索や参照処理をリードレプリカに振り分けることで、プライマリへの負荷を軽減し、全体的なパフォーマンスが向上します。

リードレプリカの基本概念

リードレプリカとは何か

リードレプリカは、元のデータベース(プライマリインスタンス)の読み取り専用コピーです。プライマリで発生したデータ変更が自動的にリードレプリカに反映され、常に最新に近い状態を維持します。

リードレプリカの主な特徴

リードレプリカには以下のような特徴があります。

レプリケーションの仕組み

  • プライマリから非同期でデータが複製される
  • 読み取り専用で、データの変更はできない
  • 通常は数秒から数分でデータが同期される
  • 最大15個まで作成可能

柔軟な配置オプション

  • 同じリージョン内での配置
  • 異なるアベイラビリティゾーンへの配置
  • クロスリージョンでの配置(災害対策)
  • インスタンスサイズを用途に応じて選択可能

リードレプリカとMulti-AZの違い

AWSには似たような機能としてMulti-AZがありますが、目的と仕組みが異なります。両方の特徴を理解して適切に使い分けましょう。

比較項目リードレプリカMulti-AZ
主な目的パフォーマンス向上高可用性確保
データ同期非同期(若干の遅延あり)同期(リアルタイム)
アクセス方法個別のエンドポイントでアクセス通常は意識せず自動切り替え
使用場面読み取り負荷の分散、地理的分散システム障害時の自動復旧
コストインスタンス数に応じて増加単一インスタンスの約2倍
管理の複雑さアプリケーション側の対応必要透明な運用

実際の使い分け例

  • リードレプリカ:ECサイトの商品検索、レポート生成
  • Multi-AZ:基幹システムのデータベース、重要な業務システム
  • 組み合わせ:高可用性と高パフォーマンスの両方が必要な場合

リードレプリカ設計パターン

リードレプリカの配置方法にはいくつかのパターンがあります。用途や要件に応じて適切なパターンを選択しましょう。

基本的な配置パターン

1. 同一リージョン内マルチAZ配置

最も一般的な配置パターンで、同じリージョンの異なるアベイラビリティゾーンにリードレプリカを配置します。

メリット

  • 低レイテンシーでの読み取り処理
  • AZ障害に対する耐性
  • データ転送料金の削減

適用場面

  • 一般的なWebアプリケーション
  • ユーザー数が中規模から大規模なシステム
  • リアルタイム性を重視する処理

2. 用途別インスタンス分離

異なるワークロードに対して、専用のリードレプリカを用意する設計パターンです。

設定のポイント

  • アプリケーション用:小中規模インスタンス(db.r6g.large)
  • レポート用:中大規模インスタンス(db.r6g.xlarge)
  • 分析用:高性能インスタンス(db.r6g.2xlarge、高IOPS)

クロスリージョンリードレプリカ

災害対策やグローバル展開を考慮する場合、異なるリージョンにリードレプリカを配置できます。

クロスリージョンの考慮点

  • データ転送にインターネットを経由するため遅延が大きい
  • リージョン間のデータ転送料金が発生
  • 災害復旧時にはリードレプリカをプライマリに昇格可能
  • 暗号化設定は各リージョンのKMSキーを使用

適用場面

  • グローバルサービスでの地域最適化
  • 大規模災害に対する備え
  • 法規制によるデータ保存要件への対応

負荷分散アーキテクチャ

リードレプリカを効果的に活用するには、アプリケーションから適切に負荷分散する仕組みが必要です。

負荷分散の基本的な考え方

データベースへのアクセスを処理の種類で分けて、適切なインスタンスにルーティングすることが重要です。

アプリケーション側の実装パターン

1. 接続プールによる分離

読み書きで異なる接続プールを使用し、処理の種類に応じて適切な接続を選択します。

データベース接続の設定例:
- 書き込み用プール:プライマリDBに接続(最大20接続)
- 読み取り用プール:リードレプリカに接続(最大30接続)
- 分析用プール:専用レプリカに接続(最大5接続)

2. ProxySQLを使用した自動振り分け

ProxySQLなどのプロキシソリューションを使用すると、SQLの内容を自動判定してルーティングできます。

3. アプリケーション層でのルーティング

アプリケーション側でSQLの種類を判定し、適切なエンドポイントに接続する方法です。

接続管理のベストプラクティス

複数のリードレプリカを効果的に活用するための接続管理について理解しましょう。

接続プールの設計

  • プライマリ:書き込み専用、少なめの接続数で確実性を重視
  • リードレプリカ:読み取り専用、多めの接続数で並列処理対応
  • 分析用:重い処理専用、適切な接続数制限でリソース管理

ヘルスチェック機能

  • 各リードレプリカの死活監視
  • 遅延チェックによる自動切り替え
  • 障害時の自動復旧処理

ProxySQLの活用

ProxySQLは、SQLクエリを自動的に分析して適切なデータベースインスタンスに振り分けるプロキシソフトウェアです。設定例として以下のようなルールを適用できます:

  • SELECT文:リードレプリカに振り分け
  • INSERT/UPDATE/DELETE文:プライマリに振り分け
  • 重い集計処理:専用の分析レプリカに振り分け

パフォーマンス最適化

レプリケーション遅延の監視と対策

リードレプリカの最も重要な指標は「遅延(Lag)」です。遅延が大きくなると、古いデータを読み取ってしまう可能性があります。

遅延の原因と対策

監視すべきメトリクス

  • ReplicaLag:レプリケーション遅延時間
  • DatabaseConnections:接続数
  • ReadIOPS:読み取りIOPS
  • CPUUtilization:CPU使用率

遅延発生時の判断基準

  • 1分未満:正常範囲
  • 1〜5分:注意が必要、原因調査を推奨
  • 5分以上:対策が必須、アプリケーションへの影響を考慮

ユーザー権限の設計

リードレプリカでは適切な権限管理が重要です。用途に応じて異なるアクセス権限を設定しましょう。

推奨ユーザー構成

ユーザー種別用途権限範囲接続制限
app_readonlyアプリケーション用必要なテーブルのみSELECT1時間1000クエリ
analytics_user分析・レポート用全テーブルSELECT1時間10000クエリ
monitoring_user監視ツール用performance_schema制限なし

セキュリティのベストプラクティス

  • 各ユーザーには最小限の権限のみ付与
  • 接続元IPアドレスの制限
  • 定期的なパスワード変更
  • 未使用ユーザーの削除

災害復旧とフェイルオーバー

プライマリデータベースに障害が発生した場合、リードレプリカを新しいプライマリに昇格できます。

リードレプリカ昇格の仕組み

フェイルオーバーの手順

1. 事前準備

  • 昇格候補リードレプリカの特定
  • 自動化スクリプトの準備
  • アプリケーション側の接続先変更手順

2. 実行手順

  • プライマリの状態確認
  • 最新のリードレプリカを特定
  • 昇格コマンド実行
  • アプリケーションの接続先更新

3. 復旧目標

  • RTO(目標復旧時間):10-15分
  • RPO(目標復旧ポイント):5-10分程度

注意点

  • 昇格処理中は書き込みができない
  • 遅延があった場合、データの整合性を確認が必要
  • 昇格後は元のプライマリとは独立したインスタンスとなる

運用ベストプラクティス

監視とアラート設定

リードレプリカの安定運用には適切な監視が不可欠です。

重要な監視項目

カテゴリメトリクス推奨閾値対応方法
レプリケーションReplicaLag300秒以下インスタンス強化
パフォーマンスCPUUtilization80%以下スケールアップ
接続DatabaseConnections最大接続数の80%以下接続プール調整
I/OReadIOPSインスタンス上限の80%以下ストレージ強化

コスト最適化戦略

リードレプリカの運用コストを抑制するための具体的な方法をご紹介します。

インスタンスサイジング戦略

  • 通常のアプリケーション:db.r6g.large程度
  • 重い分析処理:db.r6g.xlarge以上
  • 開発・検証環境:db.t3.medium程度

スケジューリング活用

  • 営業時間外のスケールダウン
  • 週末の最小構成への変更
  • 自動化による人的コストの削減

リージョン戦略

  • 同一リージョン内:データ転送料金なし
  • クロスリージョン:災害復旧目的に限定
  • 必要に応じた配置の見直し

まとめ

リードレプリカは、データベースの読み取り性能を向上させるための強力な機能です。適切に活用することで、以下のメリットを得られます。

主な効果

  • アプリケーションのレスポンス時間短縮
  • プライマリデータベースの負荷軽減
  • 分析処理とオンライン処理の分離
  • 災害時の迅速な復旧対応

成功のポイント

  • 用途に応じた適切な配置設計
  • アプリケーション側での効果的なルーティング
  • 継続的な監視とパフォーマンス調整
  • コストと性能のバランス

導入の進め方

リードレプリカの導入を検討されている方は、まず現在のデータベース負荷を分析することから始めましょう。読み取り処理の比率が高い場合や、レポート生成でパフォーマンスに影響が出ている場合は、リードレプリカが有効な解決策となるでしょう。

小さく始めて段階的に拡張していくアプローチがおすすめです。最初は1つのリードレプリカから始めて、効果を確認しながら必要に応じて追加していくとよいでしょう。