AWS Budgets基本概念 - 予算タイプとアラート機能の理解
AWS Budgetsは、コスト超過を事前に防止し、組織の予算管理を自動化するサービスです。単なるコスト監視を超えて、予算超過の未然防止、自動的なコスト制御、及び組織全体のコスト意識向上を実現します。
AWS Budgetsとは
コスト制御と予算管理の中心的役割
AWS Budgetsは、コストオーバーランの防止と組織的な予算管理の中心となります。Cost Explorerが「削減機会発見」に特化するのに対し、Budgetsは「予算統制と自動制御」に重点を置き、予想外のコスト発生を未然に防いでいます。
基本的な仕組み
AWS Budgetsは、事前に設定した予算に対して実際の支出や使用量を継続的に監視し、設定したしきい値に達した場合に自動的にアラートを送信します。
監視・制御の流れ:
- 予算設定: 金額・期間・対象範囲の定義
- 継続監視: リアルタイムでの実績tracking
- しきい値判定: 設定値との比較
- アラート発信: 自動通知とアクション実行
- レポート: 定期的な実績報告
予算タイプ
AWS Budgetsは、異なる管理目的に応じて4つの予算タイプを提供します。
1. コスト予算 (Cost Budgets)
最も基本的かつ重要な予算タイプで、金額ベースでAWSの支出を制御します。
特徴と用途
コスト制御の適用場面:
- 月次・四半期予算の厳格な管理と超過防止
- 部門・プロジェクト別のコスト責任分担と管理
- 組織全体のコストガバナンス強化と統制
設定可能な条件:
- 時間範囲: 日次、月次、四半期、年間
- 対象サービス: 全サービスまたは特定サービス
- リージョン: 全リージョンまたは特定リージョン
- アカウント: 単一または複数アカウント
- タグベース: 特定のタグ条件
実践例
部門別月次予算の設定:
予算名: 開発部門月次予算
予算額: $5,000/月
対象: タグ「Department=Development」
アラート: 80%, 100%, 120%
通知先: 開発部門マネージャー、財務責任者
2. 使用量予算 (Usage Budgets)
物理的なリソース使用量ベースでの予算管理を行います。
監視対象指標
EC2使用量予算:
- インスタンス時間 (Instance Hours)
- vCPU時間 (vCPU Hours)
- 正規化インスタンス時間 (Normalized Instance Hours)
S3使用量予算:
- ストレージサイズ (GB-Month)
- リクエスト数 (Number of Requests)
- データ転送量 (GB)
RDS使用量予算:
- インスタンス時間 (DB Instance Hours)
- ストレージ使用量 (GB-Month)
設定例
3. Reserved Instance予算 (RI Budgets)
Reserved Instanceの使用率・カバレッジを監視し、投資効果の最大化を支援します。
監視項目
RI使用率 (Utilization):
- 購入したRIの実際の使用率
- 未使用時間の特定
- 使用率低下の早期発見
RIカバレッジ (Coverage):
- オンデマンドインスタンス使用時間のうちRIでカバーされている割合
- 追加RI購入機会の特定
実践的な活用
RI効率性監視:
予算設定:
- RI使用率目標: 85%以上
- カバレッジ目標: 70%以上
アラート条件:
- 使用率80%未満で警告
- カバレッジ60%未満で追加購入検討
- 継続的な低使用率でRI変更検討
4. Savings Plans予算
Savings Plansのコミット達成状況と節約効果を監視します。
監視対象
使用率監視:
- コミット時間に対する実際の使用率
- 未使用コミットの特定
- 使用パターンの変化検出
節約効果追跡:
- オンデマンド料金との差額
- 計画対実績の節約額
- ROI計算と効果測定
アラート機能
アラートタイプ
AWS Budgetsは、異なる状況に応じた3つのアラートタイプを提供します。
1. 実績アラート (Actual Alerts)
特徴: 実際の支出・使用量ベース 更新頻度: 1日3回(約8時間ごと) 用途: 確実な予算超過の通知
2. 予測アラート (Forecasted Alerts)
特徴: 月末予測値ベース 更新頻度: 1日1回 用途: 予算超過の事前警告
予測アルゴリズム:
- 過去の使用パターン分析
- 現在の使用トレンド
- 季節性要因の考慮
- 残り期間での推定
3. RI/Savings Plans アラート
特徴: RI・Savings Plans専用 監視内容: 使用率とカバレッジ 用途: 投資効果の最適化
しきい値設定
効果的なしきい値設計
段階的アラート設定:
第1段階: 75% - 早期警告
- 対象: プロジェクト担当者
- アクション: 使用状況確認
第2段階: 90% - 注意警告
- 対象: マネージャー
- アクション: 対策検討開始
第3段階: 100% - 緊急警告
- 対象: 責任者・財務担当
- アクション: 緊急対策実施
第4段階: 110% - 重大警告
- 対象: 経営陣
- アクション: 予算変更・プロジェクト見直し
予測アラートの活用
予測精度の向上:
- 月の前半(1-15日): 予測精度低(参考程度)
- 月の後半(16-31日): 予測精度高(対策実施)
実践的な設定例:
実績アラート: 80%, 100%
予測アラート: 85%, 105%
理由:
- 実績80%で現状把握
- 予測85%で事前対策
- 実績100%で緊急対応
- 予測105%で予算変更検討
通知機能
通知方法
1. メール通知
基本設定:
- 最大10個のメールアドレス設定可能
- HTML/テキスト形式でのレポート
- 自動配信とマニュアル送信
メール内容:
- 予算名と現在の状況
- しきい値超過の詳細
- 推奨アクション
- Cost Explorerへのリンク
2. SNS連携
高度な通知制御:
- 複数の通知先への一括配信
- Lambda関数との連携
- Slack/Teams等への転送
- 自動エスカレーション
SNS連携の活用例:
- SlackやTeamsなどのチャットツールへの通知転送
- 緊急度に応じた通知先の自動切り替え
- メッセージのカスタマイズや書式設定
- アラート情報のデータベースへの記録
カスタムアクション
Lambda関数による自動対応
自動制御の主な機能:
緊急対応アクション(100%超過時):
- 開発環境リソースの一時停止
- Auto Scalingポリシーの緊急調整
- 非必須サービスの停止
予防的アクション(90%予測時):
- インスタンスサイズの最適化
- 未使用リソースの特定と停止
- スケジュール停止の前倒し実行
Lambda関数では、SNSメッセージを解析してアラートレベルを判定し、適切なコスト制御アクションを自動実行できます。詳細な実装についてはAWS Lambda公式ドキュメントを参照してください。
Cost Explorerとの連携
相互補完的な関係
連携の実践例:
- Cost Explorerで過去のコストパターンを分析
- 分析結果を基にAWS Budgetsで適切な予算設定
- 予算アラート発生時にCost Explorerで詳細原因分析
- 分析結果を踏まえて予算設定を調整
データの一貫性
共通データソース:
- 両サービスとも同じ課金データを使用
- 更新タイミングの違いに注意(Budgetsは約8時間遅延)
- フィルタリング条件の統一が重要
料金体系
予算作成コスト
基本料金:
- 最初の2つの予算: 無料
- 3つ目以降: $0.02/予算/日(約$0.60/月)
計算例:
シナリオ: 10個の予算を設定
コスト計算:
- 無料分: 2予算 × $0.00 = $0.00
- 有料分: 8予算 × $0.60/月 = $4.80/月
- 月間合計: $4.80
関連コスト
SNS通知料金:
- メール通知: $0.50 per million notifications
- SMS通知: 地域により異なる
- 通常の予算監視では微少な費用
Lambda実行料金:
- 自動アクション実装時のみ
- 通常は月間無料枠内で収まる
制限事項
予算数の制限
アカウント単位:
- 最大20,000予算/アカウント
- 実際の運用では数百〜数千が一般的
アラート制限
通知先制限:
- メールアドレス: 10個/予算
- SNSトピック: 10個/予算
更新頻度
データ更新:
- 実績データ: 1日3回更新(約8時間間隔)
- 予測データ: 1日1回更新
- リアルタイム監視は不可