AWS Auto Scaling 完全ガイド - 自動スケーリングの基本から実践まで
現代のWebアプリケーションやシステムでは、ユーザー数やトラフィックの変動に柔軟に対応することが求められます。AWS Auto Scalingは、このような変動する需要に自動的に対応し、システムの可用性を保ちながらコストを最適化する強力なサービスです。この記事では、AWS Auto Scalingの基本概念から実践的な実装方法まで、体系的に解説していきます。
AWS Auto Scalingとは
基本的な概念
AWS Auto Scalingは、アプリケーションの需要に応じてAWSリソースを自動的に調整する機能です。システムの負荷が高くなればリソースを増やし、負荷が下がればリソースを減らすことで、常に適切なパフォーマンスを維持します。 主に以下の2つのタイプがあります。 Amazon EC2 Auto Scaling EC2インスタンスの数を自動的に調整します。Webサーバーやアプリケーションサーバーなど、コンピューティングリソースが必要なワークロードで活用されます。 Application Auto Scaling EC2以外のAWSサービス(ECS、DynamoDB、Lambda等)のリソースを自動調整します。各サービス特有の設定に応じてスケーリングを行います。
なぜAuto Scalingが必要なのか
従来のオンプレミス環境では、ピーク時の負荷を想定してサーバーを用意する必要がありました。しかし、これには以下のような課題があります。 コストの無駄 年間を通じて最大負荷は数回しか発生しないにもかかわらず、常にその分のリソースを確保し続ける必要があります。 スケーラビリティの限界 予想を超える負荷が発生した場合、手動でサーバーを追加する必要があり、時間がかかります。 運用負荷 負荷の変動を常に監視し、手動でリソースを調整する作業が必要になります。 AWS Auto Scalingは、これらの課題を解決する画期的なソリューションです。
AWS Auto Scalingの主要メリット
コスト最適化
Auto Scalingの最大の魅力は、コストの最適化です。必要な時にだけリソースを使用し、需要が減った時には自動的にリソースを削減します。例えば、平日の日中はトラフィックが多くても、夜間や週末は大幅に減少するWebサービスでは、この機能により大幅なコスト削減が期待できます。
可用性の向上
複数のアベイラビリティゾーンにインスタンスを分散配置することで、単一障害点を排除します。あるゾーンで障害が発生しても、他のゾーンのインスタンスが継続してサービスを提供し、障害の影響を最小限に抑えます。
運用負荷の軽減
従来は手動で行っていたリソースの調整作業が完全に自動化されます。深夜や休日の急激な負荷変動にも、人的介入なしに対応できるため、運用チームの負担が大幅に軽減されます。
パフォーマンスの安定化
負荷に応じて適切な数のリソースを維持することで、レスポンス時間を安定させられます。ユーザー体験の向上につながり、ビジネスにも良い影響をもたらします。
Auto Scalingの基本的な仕組み
主要コンポーネント
Auto Scalingシステムは、以下の要素が連携して動作します。 Auto Scaling Group(ASG) EC2インスタンスをまとめて管理する論理的なグループです。最小数、最大数、希望する数を設定し、この範囲内でインスタンスの増減を制御します。 Launch Template インスタンスを起動する際の設定テンプレートです。AMI、インスタンスタイプ、セキュリティグループなど、必要な設定をあらかじめ定義しておきます。 Scaling Policy スケーリングを実行する条件やルールを定義します。CPU使用率、リクエスト数、カスタムメトリクスなど、様々な指標に基づいてスケーリングの判断を行います。 CloudWatch Metrics システムの状態を監視するメトリクスです。CPU使用率、メモリ使用率、ネットワークトラフィックなど、様々な指標を収集・監視します。 Load Balancer トラフィックを複数のインスタンスに分散させる役割を担います。インスタンスが増減した際も、自動的にトラフィックの分散先を調整します。
動作フローの概要
- 監視フェーズ: CloudWatchが継続的にメトリクスを監視
- 判断フェーズ: 設定した閾値を超過するとアラームが発動
- 実行フェーズ: Auto Scalingポリシーに基づいてインスタンスを調整
- 適用フェーズ: Load Balancerがトラフィックを再分散
- 安定化フェーズ: クールダウン期間を設けて安定化を待機
スケーリングポリシーの種類
Target Tracking Scaling(目標追跡スケーリング)
最も使いやすく推奨されるスケーリング方式です。目標とする値(例:CPU使用率70%)を設定すると、その値を維持するよう自動的にインスタンス数を調整します。 適用例
- CPU使用率を70%に維持
- ALBのリクエスト数を1インスタンスあたり100リクエストに維持
- カスタムメトリクスを特定の値に維持
Step Scaling(ステップスケーリング)
メトリクスの値に応じて、段階的にスケーリング量を調整する方式です。軽微な負荷増加には少しだけスケールアウトし、大幅な負荷増加には大きくスケールアウトできます。 適用例
- CPU 70-80%: 1インスタンス追加
- CPU 80-90%: 2インスタンス追加
- CPU 90%以上: 3インスタンス追加
Scheduled Scaling(スケジュールスケーリング)
予測可能な負荷パターンに対して、スケジュールに基づいてスケーリングを実行する方式です。 適用例
- 平日9時に業務開始に備えてスケールアウト
- 平日18時に業務終了に合わせてスケールイン
- 週末は最小構成で運用
Predictive Scaling(予測スケーリング)
機械学習を活用して過去のトラフィックパターンを分析し、将来の需要を予測してスケーリングを行います。需要が発生する前にリソースを用意できるため、レスポンス性が向上します。
Application Auto Scaling
対応サービス
EC2以外のAWSサービスでも、Auto Scalingを利用できます。主な対応サービスは以下の通りです。 Amazon ECS コンテナサービスのタスク数を自動調整します。CPU使用率やメモリ使用率に基づいてスケーリングが可能です。 Amazon DynamoDB テーブルやグローバルセカンダリインデックスの読み書きキャパシティを自動調整します。使用率に応じてキャパシティの増減を行います。 AWS Lambda 関数の同時実行数を調整します。リクエスト数に応じて適切な実行環境を維持します。 Amazon Aurora Auroraレプリカの数を自動調整し、読み取り負荷に対応します。 Amazon SageMaker エンドポイントのインスタンス数を調整し、推論リクエストに対応します。
DynamoDBでの実装例
DynamoDBのテーブルでは、読み書きキャパシティユニットを自動調整できます。 基本設定
- 最小キャパシティ: 5 RCU/WCU
- 最大キャパシティ: 100 RCU/WCU
- 目標使用率: 70% 使用率が70%を超えるとキャパシティが自動的に増加し、70%を下回ると減少します。これにより、パフォーマンスを維持しながらコストを最適化できます。
ECSサービスでの実装例
ECSサービスでは、タスク数を自動調整できます。 CPU使用率ベース
- 目標CPU使用率: 70%
- 最小タスク数: 2
- 最大タスク数: 20 メモリ使用率ベース
- 目標メモリ使用率: 80%
- スケールアウト/インのクールダウン: 300秒 複数のメトリクスを組み合わせることで、より精密なスケーリングが可能になります。
インスタンスライフサイクル最適化
インスタンスの起動と終了時にカスタムアクションを実行できます。Warm Poolsを活用することで、事前に準備されたインスタンスを利用してスケールアウト時間を短縮できます。
Warm Poolsの主な設定項目:
- MaxGroupPreparedCapacity: 事前準備インスタンス数
- PoolState: Stopped(停止状態で待機)
- ReuseOnScaleIn: スケールイン時の再利用
ライフサイクルフックの活用場面:
- インスタンス起動時の初期設定
- 終了時のデータ退避処理
- ロギングや監視エージェントの設定
コスト最適化戦略
Spot インスタンス統合
Spotインスタンスとオンデマンドインスタンスを組み合わせることで、コストを大幅に削減できます。
Mixed Instances Policyの主要設定:
- OnDemandBaseCapacity: 最低限のオンデマンドインスタンス数(例:2台)
- OnDemandPercentageAboveBaseCapacity: ベース以上の追加分でのオンデマンド比率(例:25%)
- SpotAllocationStrategy: Spotインスタンスの配分戦略(diversified推奨)
- SpotInstancePools: 使用するSpotプールの数(例:4プール)
コスト最適化のベストプラクティス:
- 重要なインスタンスにはスケールイン保護を設定
- スケールインのクールダウンを長めに設定して頻繁な変動を防止
- 複数のインスタンスタイプを使用してSpot中断リスクを分散
監視とトラブルシューティング
Auto Scaling 活動監視
CloudWatchダッシュボードを使用して、Auto Scalingの動作を可視化できます。
重要な監視メトリクス:
- GroupDesiredCapacity: 希望するインスタンス数
- GroupInServiceInstances: 稼働中のインスタンス数
- GroupPendingInstances: 起動中のインスタンス数
- GroupTerminatingInstances: 終了中のインスタンス数
- CPUUtilization: 平均CPU使用率
トラブルシューティングのポイント:
インスタンスが起動しない場合:
- Launch Templateの設定確認(AMI、セキュリティグループ、IAMロール)
- サブネット容量の確認
- EC2のサービスクォータ確認
頻繁なスケーリング(フラッピング):
- クールダウン期間の調整
- メトリクスの閾値見直し
- Target Tracking Scalingへの切り替え検討
コスト増大:
- スケールインポリシーの見直し
- Spotインスタンスの活用
- Predictive Scalingの導入検討